
夕暮れ時、コインランドリーの蛍光灯は、やけに白々しく俺の顔を照らしていた。誰もいない。いつもそうだ。この街で、俺の周りにはいつも誰もいない。乾燥機の鈍いモーター音が響くだけで、その音がまた、俺の耳の奥で孤独を反芻させる。誰かに会いたくてたまらないのに、誰とも会えない。会う相手もいない。この「孤独恐怖症による絶望的な孤立感」ってやつは、一体いつになったら俺を解放してくれるんだろう。もう40過ぎて、このざまだ。情けなくて、吐き気がする。
ふと、手に持っていたスマホの画面が点滅した。「着信ナシ」。は? 着信ナシ? 誰からだ? 誰からもかかってきていないはずなのに、なんで「着信ナシ」なんて表示されるんだ。バグか? しかし、その表示がまた俺の不安を煽る。誰からもかかってこないこの虚無を、わざわざ表示して見せつけるのか。俺の人生は、ずっと「着信ナシ」の連続だ。この乾いた事実が、また胃のあたりをギューッと締め付ける。
「着信ナシ」の表示は、まるで秒針のように次々と更新されていく。一回、また一回と、まるで誰かがしつこく電話をかけてきては、すぐに切っているみたいに。心臓がドクリと跳ねた。何が起きている? 乾燥機から聞こえるベルの音が、やけに甲高く耳障りだ。チン、チン、チン……。まるで、誰かが俺を呼んでいるかのように、不規則に鳴り響く。
俺は、自分の呼吸がどんどん浅くなるのを感じた。背中を伝う脂汗が、じっとりシャツに張り付く。まさか、誰かそこにいるのか? こんな誰もいないはずの場所で。背筋に冷たいものが走った。振り返った。誰もいない。そこには、俺の影が薄く伸びているだけだ。
「誰だ? 何が起こっているんだ?」
声が震えた。こんな場所で、こんな時間に、一体誰が俺を試しているんだ。この「孤独恐怖症による絶望的な孤立感」が、俺の神経を常に研ぎ澄まさせているせいで、些細な物音にも心臓が跳ね上がる。誰とも繋がれないという絶望が、俺をこんなにも臆病にする。俺は、いつまでこうやって一人で震えているんだろう。このまま死ぬまで孤独で、誰にも気づかれずに朽ちていくのか。そんなことを思うと、足元が覚束なくなる。
その時だった。ガチャン、とドアが開き、宅配員が大量の段ボール箱を抱えて入ってきた。弁当だ。うず高く積まれた弁当の山。まさか、あのベルの音は、あの連続する「着信ナシ」は……。
俺は気を取り直し、苦笑しながらスマホを確認した。確かに「着信ナシ」は頻繁に更新されていた。だが同時に、大量のメッセージ通知も表示されている。全て、宅配弁当に関する連絡だった。配達状況、到着予定、そして「まもなく到着します」の連続。ああ、そうか。宅配員がインターホンを鳴らし続け、そのたびに、俺のスマホの連携アプリが「着信ナシ」と勘違いして表示していたのか。俺は、その馬鹿馬鹿しい真相に、どっと脱力した。全身から力が抜け、安堵の息を吐く。
なんだ、そんなことか。たったそれだけのことで、俺はここまで追い詰められていたのか。馬鹿みたいだ。でも、こんな馬鹿みたいな勘違いにすら、俺は敏感に反応してしまう。きっと、俺の「孤独恐怖症による絶望的な孤立感」が、常に何かを求めて、何かを恐れて、見えない影に怯えているからだろう。結局、何事もなかった。いつも通り、俺は一人で、乾燥機の前で自分の洗濯物が乾くのを待つだけだ。そして、また「着信ナシ」の人生に戻る。俺の日常は、常にこの虚無で満たされている。