洗車場の異音、娘はどこへ

深夜の洗車場で聞こえる怪奇現象

もう、どれくらいこの薄暗い場所をうろついているんだろう。約束の時間を過ぎて、もう二時間近くになる。携帯を握りしめても、画面は真っ暗なままだ。あの子から連絡はない。何度電話しても、留守電の機械的な声がむなしく響くだけ。こんな時間まで、どこにいるのよ。まさか、あの時の…? 胃の奥がキリキリ痛む。不安で、吐きそうだ。

洗車場は、普段ならもうとっくに閉まっているはずなのに、隅の方の蛍光灯が、力なく点滅している。閉店したとは言え、まだ水滴の生臭い匂いや、機械油の変な甘ったるい匂いが鼻につく。隅には清掃用のバケツとか、使い古されたブラシとかが雑に積み上げられていて、その向こうの影が、何か生き物みたいに見えてゾッとする。

その時だった。「ドスン、ドスン……」と、頭上から、重いものが引きずられるような鈍い音が響いた。まさか、誰かいるの? こんな時間に。あの子が、屋根裏みたいなところに入り込んでいるのか? いや、そんなはずない。でも、もし、もし変な人に連れ込まれて、閉じ込められていたら……。心臓がドクン、と大きく跳ねた。胸が苦しい。

続けて、「カラン、コロコロ……」と、軽いものが転がるような小さな音がした。まるで、小石が床を滑るような。もしかして、あの子が何か落とした? それとも、誰かが何かを転がして遊んでいる? いや、遊ぶなんて状況じゃない。この音、一体何? 不安で、足元がフラフラする。子供が心配で、まともに呼吸もできない。このまま倒れてしまいそうだ。

音が、だんだん激しくなってきた。「ドスン、ドスン」という重い足音のようなものが、今度は少し速くなって、その間に「ジジジ……」と、何かが擦れるような、微かな電気的なノイズが混じり始めた。まるで、誰かが動くたびに、体がどこかに触れるような、そんな不快な音。そして、その音の合間に、まるで人間の唸り声のような、低い声が聞こえたような気がした。

誰かいる。確実に、いる。
それが、あの子ならどれだけいいか。でも、もし、あの時の変な男だったら? 冷たい汗が背中を伝う。全身の毛穴が開いて、ゾワゾワと鳥肌が立つ。早くここから逃げなきゃ。でも、あの子がここにいるかもしれないのに、どうして逃げられる? 足が鉛のように重いのに、無理やり動かして、音のする方へ、そろりそろりと近づいていく。

洗車機の巨大な金属の塊と、資材が山積みになった薄暗い隙間。そこから音が一番強く聞こえてくる。覗き込まないと見えない、まさに死角。恐る恐る、体をかがめて、その狭い隙間に目を凝らした。

そこに、あった。

床に、無造作に転がっていたのは、奇妙なゴーグルみたいなもの。VRヘッドセット、だったか。その傍らには、小型のモニターと、手のひらサイズの外付けスピーカーが置かれていた。モニターには、ゲームの映像が映し出されていて、そこから例の「ドスン、ドスン」という重々しい足音や、「カラン、コロコロ」という小石が転がるような音が鳴り響いている。ヘッドセットからは、電源が入っているのか、微かに「ジジジ」というファンの回転音が聞こえる。ああ、これだったのか……。

電源は、洗車機を動かすための、壁に備え付けられた業務用のコンセントから、だらりと伸びた延長コードで繋がれている。多分、夜勤の従業員が、休憩中にでもゲームをしていたんだろう。全く、こんな場所で。

膝から力が抜け、へたり込んでしまった。脱力感。全身の緊張が一気に解けて、ガクガクと震えが止まらない。バカみたい。こんなに怯えて、まるでコントだ。恐怖で半泣きだったのに、思わず乾いた笑いがこみ上げてきた。

でも。

これで安心したわけじゃない。あの子は、どこにいるの? 心臓のドクドクする音はまだ速いまま。胃の不快感も消えない。この安堵は、一瞬の錯覚に過ぎなかった。私の子供は、まだ見つかっていないのだから。早く、早く見つけないと。