頭から焦げた匂い。私の髪が燃えている?

もう閉店時間だというのに、私は相変わらずこの薄暗いショッピングモールをうろついていた。いや、うろついているというより、足が勝手に、まるで何かを避けようとしているかのように、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。視線は常に自分の頭頂部をさまよっている。今日だって、もう駄目だ。朝から妙に落ち着かないと思っていたら、ウィッグがまた、あの忌々しいウィッグが、じわじわと後頭部から浮き上がってきている。

この歳になると、髪の毛の一本一本が砂のようにこぼれ落ちていく感覚は、もう慣れっこになってしまったけれど、ウィッグがずり落ちる恐怖だけは、何度経験しても心臓が掴まれるようだ。ネットと地肌が擦れるたび、チリチリと微かに静電気が走るような、あの不快な感触。ああ、もう、早く家に帰って、鏡の前でゆっくり直したい。いや、いっそ脱ぎ捨ててしまいたい。でも、そんなこと、できるわけない。もし今、この薄汚れた地肌が、誰かの目に触れたら……考えるだけで胃のあたりがぞわりとする。

そうやって、ウィッグの生え際を指先で何度も確認していると、不意に、ツンと鼻を突くような嫌な匂いがした。焦げ臭い。それも、髪の毛が焼けたような、ビニールが溶けたような、あの、生理的に受け付けない匂いだ。

「え……?」

思わず顔を上げた。どこから? 何が焦げているの? 閉店後のモールは、照明が落とされて薄暗く、人気もない。エスカレーターの駆動音だけが、やけに大きく響いている。それでも、視界の端には何も異常は見当たらない。天井に設置された空調の吹き出し口も、ただ静かに風を送っているだけ。それでも、焦げ臭さは確実に、私の鼻腔を占拠していく。まるで、私のすぐそばで、何かが燃えているみたいに。

もしかして、誰かいるの? 隠れて、何かをしている? まさか、放火犯? 背筋に冷たいものが走った。全身の毛穴がキュッと締まるような感覚。恐怖が、ゆっくりと、しかし確実に私の内側を満たしていく。私は身を固くして、目を凝らした。薄暗い通路の奥、ショーケースの影、どこかに誰かが潜んでいるんじゃないか。そう思うと、もう、生きた心地がしない。この焦げ臭さは、もう鼻の奥までこびりついて、吐き気がするほどだ。早くここから逃げ出したい。でも、足がすくんで動けない。

そして、この最悪のタイミングで、またしても頭がむず痒い。ウィッグが、後頭部が、完全に浮き上がってきているのがわかる。もう、今にも外れてしまいそうだ。こんな時に限って。こんな、得体の知れない恐怖に怯えている時に、この、私の醜い現実まで突きつけられるなんて。神様は、本当に意地悪だ。こんな、生々しい地肌が、もし今、この場に潜む誰かに見られたら、私はもう、生きていけないかもしれない。

「もう、無理……落ちる……」

思わず、震える指を後頭部のウィッグの縁にやった、その時だった。

チリチリ、と、指先に微かな熱と、何かが燃えるような感触。そして、視界の端に、微かに立ち上る煙と、小さな、本当に目を凝らさないと見えないほどの火花が、ウィッグのネットの隙間から散っているのが見えた。

「ひぃっ……!」

声にならない悲鳴が喉の奥で詰まった。私の頭、私のウィッグから煙が! まさか、私の髪の毛が燃えているの!? 地毛が、この少ない地毛が、ついに焼けてなくなってしまうの!?

その時、背後から優しい声がした。

「あら、お客様、まだいらしたんですか? 大丈夫ですか?」

振り返ると、30代くらいの女性が立っていた。このモールに入っているウィッグ専門店の店員だ。夜間搬入のトラックが来る時間だから、品出しのために残っていたのだろう。彼女は私の頭を見て、ふわりと笑った。

「あらあら、焦げちゃいましたね、ウィッグ。静電気と摩擦で、特に乾燥していると起こりやすいんですよ。大丈夫、地毛は大丈夫ですよ」

私は、あんぐりと口を開けたまま、彼女を見つめた。私の、私の髪が……。

「いえいえ、ウィッグの毛とネットの部分ですよ。地毛は大丈夫。でも、かなり乾燥してるみたいだから、保湿ケアされた方がいいですよ。それに、そろそろ新しいウィッグに替え時かもしれませんね」

彼女の言葉に、全身の力が抜けた。そうか、私の髪じゃない。ウィッグが、ウィッグが燃えていたのか。怪奇現象でも、放火犯でもなく、ただ私のウィッグが、寿命で焦げ始めただけ。

「ああ……そう、よね……」

力なく笑った。安堵と、そしてまた別の、深い溜息が混じった笑いだ。そりゃあそうだろう。このウィッグも、もう何年使っているかわからない。裏のネットは擦り切れて、毛はゴワゴワ。毎日毎日、私の薄っぺらい地肌を隠し続けてくれた、この古びたウィッグが、ついに燃え始めた。

新しいウィッグか……。また、あの高額な出費を考えなくてはならない。そして、また一から、自分に合うものを選んで、美容師さんにカットしてもらって……。その手間と、そしてまたいつか、こうしてウィッグがずり落ちて、私の地肌が誰かの目に晒されるんじゃないかという、拭い去れない恐怖が、再び私の心に重くのしかかる。

ああ、早く帰って、この焦げ臭いウィッグを、どうにかしないと。でも、新しいウィッグを買うまで、私はまた、このボロボロのウィッグを被り続けるしかないのだ。この、いつ燃え尽きてもおかしくない、私の、消えゆく髪の象徴を。