眠りを奪う、赤い点滅。

真夜中のチカチカ

まただ。また、あの音がする。

この数日、いや、もう何週間になるかしらね。夜中に響く、あの不快な電子音。カチッ、カチッ、という、まるで誰かがインターホンを弄っているような音。おかげでこの私の睡眠はもう、ぼろぼろよ。朝から頭はガンガンするし、首から肩にかけては石みたいに凝り固まって、まるで鉄の鎧を背負ってるみたい。ただでさえ腰痛持ちなのに、寝不足で体は鉛のように重いの。もう、いい加減にしてほしいわ。

今夜も、やっとうつらうつらしかけた、深夜の1時半ごろだったかしら。あの音が、また始まった。最初は夢かと思ったのよ。でも、違う。現実の、はっきりと耳に届く、あの不快な電子音。インターホンの、あの軽い、しかし神経を逆撫でするような音が、規則的に響いてくる。

「うーん…インターホン?こんな時間に、一体誰よ!」

もう、限界。体が軋むような音を立てて、ようやくベッドから這い出したわ。頭は重いし、足元はフラフラする。平衡感覚もおかしいのか、真っ直ぐ歩いているつもりが、壁に体をぶつけてしまう。ああ、こんなことだから、転んで骨折でもしたらどうするのよ、私。この年になると、ちょっとした転倒でも大怪我に繋がるんだから。

暗い廊下を伝って玄関へ向かう。インターホンは、玄関のドアのすぐ脇にある。電気もつけずに、暗闇に目を凝らしてドアスコープを覗くけど、外には誰もいない。当たり前だわ。こんな真夜中に、人が来るわけないじゃない。

でも、音は止まない。カチッ、カチッ。

目を凝らすと、インターホンのボタンが、まるで赤い光を放って点滅しているように見えたのよ。いや、違う。点滅しているように「見える」の。焦点が合わないだけなのか、それとも、私の目が、疲労で幻を見ているのか。インターホンのプラスチックカバーに走る細かな傷が、薄暗闇の中で妙な模様に見えて、まるで誰かの顔が浮かび上がっているみたいで、思わずひぃ、と小さな声が出たわ。パレイドリア、だったかしら?あの、疲れてる時に、シミや影が顔に見えるってやつ。きっとそれだわ。でも、そう思うと、余計に気持ち悪い。

「誰かいるんじゃないの?本当に?」

心臓がドクドクと、耳元で煩く鳴り響く。血管がドクン、ドクンと脈打つ音が、頭の中で響いて、吐き気がしてきたわ。あの赤い点滅。遠くから、何か赤い光がちらつくのが見えた。墓地の向こう側よ。私の家は、裏手が小さな墓地なの。まさか…本当に幽霊でも出るって言うの?こんな歳になって、幽霊なんて信じたくもないけど、この疲労困憊の体だと、何でもあり得るって思えてくるのよ。

「ああ、もう嫌だわ。こんな目に遭うなんて。ただでさえ体中が痛いのに、こんな真夜中まで神経すり減らされて…」

寝不足のせいで、視界は曇って、頭の中もモヤがかかったみたい。遠くの赤い光は、ぼんやりと、しかし確実に点滅を繰り返している。カチッ、カチッという音も、その光に合わせて聞こえるような気がする。まさか、あの光がインターホンを鳴らしているとでも言うの?ばかばかしい。こんなことで怯えているなんて、自分でも情けないわ。

でも、この不快感は、どうしようもない。

もう、我慢できない。私は意を決して、玄関の鍵をガチャリと開け、そっとドアを開けた。ひんやりとした夜の空気が、むわっと蒸した室内の空気と入れ替わる。鳥肌が立つほどの冷気だけど、同時に、少しだけ頭が冴えるような気もしたわ。

目を凝らして、よくよく見てみる。墓地の向こう側、少し開けた土地に、あの赤い光が規則的に点滅しているのが見えた。ああ、あれは…あれは、工事現場の保安灯じゃないの!

「もう!あの工事、まだやってたのね!」

やっと分かったわ。あの赤い点滅灯の、微弱な電子音が、空気の振動か何かしらで、インターホンに共鳴して聞こえていたのね。あるいは、ただ私の耳鳴りだったのか。そして、あの点滅の光が、玄関のガラスに反射して、インターホンのボタンが光っているように見えたのよ。

あの工事は、最近始まったばかりの電線工事だったはずだわ。きっと、夜間しかできない作業だったのね。ほら、あそこに、仮設の発電機が置いてあるのが見えるわ。そこから電源を取っているのね。本当に、ご苦労様なことだわ。でも、近隣住民の睡眠を妨げないでほしいわ!

まったく、馬鹿みたい。こんな真夜中に、幽霊かなんて騒いで、一体何をしているんだか。睡眠不足で、こんなにも思考力が落ちるものなのね。安堵よりも、どっと疲労感が押し寄せてきたわ。肩の凝りがさらに酷くなった気がする。

もういい、寝る。眠れるものならね。
明日もまた、この疲れた体と、重い頭で、一日を過ごさなければならないのよ。
ああ、本当に、いつになったら、ぐっすり眠れる日が来るのかしら。
あの、カチッ、カチッという音が、まだ耳の奥で、微かに響いているような気がするわ。