開かぬ扉、深まる静寂

今日、帰宅して玄関の扉に手をかけた。
いつもなら抵抗なく開くはずのそれが、びくともしない。
何度力を込めても、まるで内側から押し付けられているかのように固く閉ざされている。
表面には、妙にひんやりとした湿り気を感じた。

家の中は、いつもと変わらぬ静寂に包まれているはずなのに、今日はそれがひどく重苦しく、僕の鼓動だけがやけに大きく響く。

X月Y日:違和感

あの開かない扉が閉ざされてから二日。
その間、僕は部屋に閉じ込められている。
食料はまだあるが、精神的に参っていた。

先日、フリマアプリで購入した箱を開けてみた。
中身は、大量の空気入れと、奇妙なほど巨大な、折りたたまれたビニールだった。
それを広げると、部屋の光が一瞬にして消え、完全な闇に包まれた。
同時に、全ての音が吸い込まれたような、深淵なる静寂が訪れた。

それは、まるで広大な空間に一人放り出されたような、ひゅうと冷たい風が吹き抜けるような感覚で、まるで「誰もいない教室」にいるかのような、奇妙な孤独感に襲われる。

X月Z日:限界

もうだめだ。
扉は開かない。
この静寂は僕を狂わせる。
あのフリマアプリで購入した箱を開けてから、ずっとだ。
部屋は、見えない何かにどんどん侵食されている気がする。
息が苦しい。
耳鳴りがする。
この闇の中で、僕は一体何を待っているんだ?
何が僕を閉じ込めている?
あのビニール、あれが…あれが原因なのか?

部屋の隅から、奇妙な摩擦音が聞こえる。
まさか。
僕は、震える手でスマートフォンを点け、その光を頼りに足元を探った。
そこにあったのは、巨大な風船だった。
そして、その表面には、マジックで乱雑に書かれた二文字。

『開け』

は、はは……。
なんだこれ。

追記:発見者のメモ

この日記は、三浦海斗氏が住んでいたアパートの一室で発見された。
乱雑に置かれた大量の風船の下から見つかったノートは、当初丁寧だった筆跡が日付を追うごとに乱れ、狂気と焦燥が滲み出ていた。
しかし、最終ページに書かれていたのは、突然の脱力と、呆れたような筆致だった。
アパートの玄関扉は、大量に膨らんだ風船によって完全に塞がれていたという。
また、室内には小型の風船工場が稼働していた形跡があった。
日記の表紙には『風船の秘密 -開けられない扉と不気味な箱-』という手書きのタイトルが記されていた。