金次郎像、夜のピンポン

何かがおかしい

深夜。
けたたましい音。
インターホン。
また鳴る。
誰もいない。
心臓が跳ねる。
ドクン、ドクン。
冷たい汗が背中を滑り落ちる。
鏡の中の私。
顔色は真っ青。
震える唇。
息が浅い。
窓の外。
暗闇に佇む二宮金次郎像。
いつもと変わらないはず。
なのに。
その手が、なぜか。
インターホンに向いているように見える。
錯覚?
風の音さえ、何かの気配に変わる。
影が。
揺れる。

気づいてしまった

眠れない夜が続く。
また鳴る。
夜中のインターホン。
震える指で、スマホを掴む。
監視カメラの映像。
確認する。
息を飲む。
映っている。
はっきりと。
二宮金次郎像。
その石の手が。
インターホンのボタンに、触れている。
まるで。
押しているかのように。
誰かが。
そこにいる?
私の家を。
狙っている?
そんなはずない。
でも。
この映像は。
どういうこと?
全身の血が、凍りつく。
頭の中が真っ白になる。
思考が、止まる。

もう逃げられない

インターホンが鳴るたび、体が硬直する。
もう、おかしくなりそう。
外に出るのも怖い。
誰かの視線を感じる。
どこからか。
見られている。
そんな気がする。
ある日。
町内会の掲示板。
「不審な人物がいるので注意してください」
その警告文の下に。
見覚えのある画像。
私の家の。
監視カメラの映像だ。
二宮金次郎像が、インターホンに手を伸ばしている。
まさか。
私が。
不審者?
それとも。
この映像を見た誰かが。
また、私の家を狙う?
頭がぐちゃぐちゃ。
震えが止まらない。
もう、どこにも逃げられない。
ここは、安全じゃない。

結末

ピンポン。
また。
昼間なのに。
玄関を開ける。
近所の小学生の男の子。
「千尋さん! あのね!」
元気な声。
「この前さ、千尋さんちの前の金ちゃん、倒れてたんだよ!」と男の子は言った。
「だからね、僕が頑張って起こしてあげたの!」
金ちゃん。
二宮金次郎像のことだ。
「そしたらさ、金ちゃんの手が、ピンポン押してるみたいに見えて!」
「面白かったから、写真撮ってネットに載せちゃった!」
え。
一瞬、全てが止まる。
頭の中で、パズルのピースが、カチリと嵌まる音。
あの、夜中のインターホン。
あの、監視カメラの映像。
あの、町内会の掲示板。
全部。
繋がった。
力が抜ける。
膝から崩れ落ちそうになる。
恐怖は、一瞬で、消え去る。
残ったのは。
ひどい脱力感と。
なんだか。
笑いがこみ上げてくる。
本当に。
馬鹿みたい。
私の恐怖は、たったそれだけのこと。
日常は、何事もなかったかのように。
ただ、そこにある。