
マジで、俺は一体何やってんだろ。深夜2時半。こんな時間に、なんで俺はコンビニの真ん中で立ち尽くしてんだ? トイレに行きたくて、それだけのためによったはずなのに。一歩も動けない。足が、鉛みたいに重い。
膀胱が。膀胱がもう、パンパンに膨れ上がって、破裂寸前だ。下腹部が鈍く痛む。いや、鈍いどころじゃない、もう内臓が押しつぶされるみてぇな圧迫感だ。冷や汗が背中をツーッと伝って、それがさらに「やばい」って気持ちを煽ってくる。マジで漏らす。こんなとこで漏らすとか、死んでも嫌だ。でも、それよりも、今この店の中に、俺以外の誰かがいるんじゃないかっていう、とんでもない予感がして。
コンビニの店内は、蛍光灯のブーンって音と、冷凍ケースの低い唸り声しかしない。それなのに、やたらと広い空間が、とてつもなく不気味に感じるんだ。商品の陳列棚の影が、妙な形に見えたりして、もう全部が敵に見える。俺は、店の入口から数歩入ったところで固まって、目だけをキョロキョロさせてた。誰かいるのか? 誰か、隠れてるのか?
その時だった。「カタッ」
全身が、ビクッと震えた。心臓が喉まで飛び出しそうになった。なんだ、今の音は? 耳を澄ます。自分の心臓のドクドクいう音と、耳鳴りだけが、やけにデカく響いてる。誰もいない。誰も、いない、はずだ。でも、今の音は確かに聞こえた。
「カタッ」
まただ! 今度は、さっきよりも少しだけ、はっきり聞こえた気がする。まるで、誰かが壁を叩いたみたいな、微かな、でも確実に「ノック」って感じの音。いや、ノックって言っても、指先でコンコンって叩くような軽いやつじゃなくて、もっと、木製の何かで軽く叩いたような、ずしっとした重さのある音だ。
うわ、やばい。マジでやばい。こんな深夜のコンビニで、誰もいないはずなのに、ノックの音なんて、どう考えてもおかしいだろ。俺の頭の中は、もうパニックでぐちゃぐちゃだ。ホラー映画のワンシーンじゃねぇか、これ。まさか、あの有名な都市伝説の? いやいや、そんなわけないだろ、俺、ガキじゃねぇんだから。でも、身体は正直だ。全身の毛が逆立ってるし、呼吸も浅くなる。
そして何より、膀胱の痛みが、恐怖と相まってさらに増していく。もう限界だ。マジで、膀胱がちぎれる。破裂したらどうなるんだ? 病院行きか? こんな状況で病院とか、冗談じゃねぇ。
「これは誰かがいる証拠だ! でも、なんでこんなとこにいるんだよ!?」
頭の中で叫ぶ。声に出したら、そいつに気づかれるかもしれない。俺は、もうダメだと思った。この店から、一歩も出ていけない。もう、誰かが俺を狙ってる。そうに違いない。そうとしか考えられない。俺は、もう逃げられない。
そのまま、ずるずるとしゃがみ込み、店舗の隅っこ、雑誌ラックと冷凍食品ケースの間に身を隠すように座り込んだ。膝を抱えて、頭を埋める。心臓の音が、ドコドコと全身に響く。頼む、頼むから、誰もいないでくれ。
どれくらいそうしていただろうか。永遠にも感じる数分が過ぎた。
突然、ガタッと入口のドアが開いて、チリンチリンと音がした。ビクッと体が跳ね上がる。やばい、来たのか!?
しかし、入ってきたのは、見慣れた制服を着たコンビニの清掃員のおじさんだった。おじさんは「お、お客さん、こんなとこでどうしたの?」と声をかけてきた。その声と同時に、店内の照明が、タイマーで設定されていたのか、パッと一段明るくなった。
急に明るくなった店内に、俺は目を細めながら、恐る恐る顔を上げた。そして、その時、俺は見た。
壁際に、でっかい恐竜の剥製が立ってるのが、はっきり見えたんだ。なんだこれ? こんなのあったか? いや、あったわ。たまに来るコンビニだけど、こんなデカい剥製、見たことあったわ。なんで今まで気づかなかったんだ俺は。
その剥製は、店の壁から少しだけ離れて設置されてて、明るくなったことで、その影がフッと動いたように見えた。そして、よく見ると、剥製が立ってる台座が、床にしっかり固定されてるわけじゃなくて、なんかちょっとグラグラしてる。
清掃員のおじさんが、ガタガタとモップを移動させるたびに、床に微かな振動が伝わって、その振動で、剥製が、ゆら、と揺れる。
「カタッ」
また音がした。今度は、剥製が壁に、ごく軽く接触した音だった。
ああ、これだ。これだったんだ。
深夜の静寂の中で、この剥製が、ほんの少し揺れて壁に当たった音が、「ノック」みたいに聞こえてただけだったんだ。俺は、勝手に、誰かがいるって、とんでもない勘違いをしてただけだったんだ。
一気に、全身から力が抜けた。どっと疲れが押し寄せてくる。マジかよ。俺、こんなことで、マジで死ぬかと思った。膀胱も、もう限界だって叫んでる。
「あ、これが原因だったのか……」
情けなくて、苦笑いしか出ない。清掃員のおじさんが「どうかしましたか?」って怪訝な顔で見てる。恥ずかしい。マジで恥ずかしい。
「い、いえ、なんでもないです。ちょっと、その、考え事してて……」
そう言って、俺はもう、我慢の限界を超えた膀胱を抱え、駆け足でトイレへと向かった。
深夜のコンビニに、まさかこんな罠が潜んでるとは思わなかった。恐竜の剥製とか、誰が置いたんだよ。店長か? マジでふざけんな。おかげで俺の膀胱は破裂寸前だったし、心臓はバックバクだし、寿命が縮んだわ。
でも、まあ、これで友達に話したら、最高の笑い話になるんだろうな。俺は、二度と深夜のコンビニでトイレに行きたくなっても、こんなビビり方はしないと心に誓った。…多分。