公園の笑い声は、私の中。

また、あの公園に足が向いてしまった。夜中の二時を過ぎた頃だろうか。外はひんやりと湿気を帯びて、それが皮膚にまとわりつく。吐き出す息は白く、まるで自分の内側が凍えているみたいだ。こんな時間に散歩なんて、どう考えても正気じゃない。でも、家にいると、あの時のことが、あの声が、まるで壁のシミのように、じっとりと目の裏に張り付いて離れないんだ。心臓がドクドクと不規則に脈打って、胃のあたりがキリキリと締め付けられるような不快感。ここに来たところで、何の解決にもならないって分かっているのに。

最近、足腰が弱くなったせいか、ちょっと歩くだけで息が上がる。50も半ばを過ぎれば、ガタが来るのは当たり前だ。膝の皿が擦り減っているような鈍い痛みと、古傷がじんじんする感覚。この体そのものが、もう過去の残骸みたいで、情けない。夜の公園は、昼間とはまるで違う顔を見せる。ブランコは風に揺れて、鎖が軋む音がする。滑り台の影は、何かの巨大な生き物みたいに地面にうねっている。全てが、私を不安に陥れるために、あのトラウマを呼び起こすために、仕組まれているようにしか思えない。

その時だった。「クスクス……」。

遠くから、何か音が聞こえた気がした。いや、音、というよりは、声だ。誰かが、私を嘲笑うように、忍びやかに笑っている。そんな、そんなはずはない。こんな真夜中に、誰が、一体どこで。気のせいだ、きっと風の音か、あるいは耳鳴りだろう。最近、疲れのせいか、時々キーンと甲高い音がするから。そう自分に言い聞かせても、一度意識してしまったら、もう逃れられない。

「クスクス……クスクス……」。

やはり、聞こえる。風に乗って、あるいは地面を這うように、その声が私にまとわりついてくる。段々と、はっきりと、誰かの悪意のこもった笑い声に聞こえてくる。全身の毛穴が開きっぱなしになったみたいに、冷たい汗が背筋を伝って流れる。ぞわぞわと鳥肌が立って、腕をさすってもどうにもならない。あの時の、あの忌々しい記憶が、また鮮明に脳裏に焼き付いて、私をがんじがらめにする。息が浅くなる。喉の奥から、吐き気がこみ上げてくる。

なぜこんな時間に公園で笑い声がするんだ? 誰かが、私を観察しているのか? それとも、何か、見てはいけないものが、そこに隠れているのか? 全身が震える。足元がふらついて、まるで地面が波打っているみたいだ。心臓が喉まで飛び出してきそうなほどに脈打つ。行かなければ。あの音のする場所へ行って、何が起こっているのか確認しなければ。このまま放っておいたら、きっと眠れない。いや、もう何日もまともに眠れていないけれど。

でも、足が動かない。鉛のように重くて、一歩も前に出せない。過去のトラウマが、私の四肢を縛り付けている。あの時と同じだ。動きたくても動けない。叫びたくても声が出ない。この無力感が、私をさらに追い詰める。息が苦しい。肺が押しつぶされるようだ。もう嫌だ。こんな苦しみから解放されたい。でも、どうすればいいのか、もう何も分からない。ただ、そこに立ち尽くして、あの笑い声に、嘲笑われるまま。

数日後、私は結局、再び公園にいた。あの笑い声が、私の耳から離れなかったのだ。不眠と吐き気で、すっかりやつれてしまった。このままでは、本当に気が狂ってしまう。震える足を叱咤し、胃の不快感を堪えながら、私はゆっくりと、あの音が聞こえてくる方へと歩みを進めた。

公園の一番奥、普段はあまり人が近づかない、鬱蒼とした木々が茂る一角。そこに、それはあった。

何かの工事でもあったのだろうか。金属製の仮設フェンスが、不自然に設置されている。そのフェンスの一部、本来は開閉するようになっているのだろうが、今はワイヤーでがっちりと固定され、開かないようになっている。その扉のような部分が、風にあおられて、ガタガタと揺れていた。錆びついた蝶番と、フェンスの金属板が擦れる音。風が強く吹くたびに、その擦れる音や軋む音が、不規則なリズムで響く。

「カサカサ……キィキィ……」

それが、私の耳には、「クスクス」という笑い声に聞こえていたのだ。

ああ、笑い声はそれだったのか……。

全身の力が、一気に抜けていく。膝から崩れ落ちそうになるのを、なんとか踏みとどまる。脱力感と、同時に押し寄せる自己嫌悪。夜間工事でもあったのだろう。夜中に資材を運び込んだり、作業したりするために、一時的にこの仮設の扉が設置されていたのかもしれない。私が見た時は、もう作業員は誰もいなかったけれど。おそらく、安全のために、その扉は開かないように固定され、そして風で揺れるたびに、あの忌々しい音を立てていたのだろう。

結局、私の不安と、あのトラウマが呼び起こした過敏な心が、ただの金属音を、私を嘲笑う悪意の笑い声へと変えてしまったのだ。恥ずかしい。情けない。だが、そう納得したところで、私の胸の奥に巣食うトラウマが消えるわけではない。ただ、一つの、目の前の恐怖が解消されただけ。またいつか、何かの音が、私を不安の淵へと突き落とすのだろう。この体と心が、もう二度と、あの時のように動けなくなる日が来るのだろう。そう思うと、背筋がまた冷たくなった。膝の痛みが、再びじんじんと主張し始める。ああ、まただ。またこの、動けない自分に、私は囚われていく。