Siriが囁く「君の秘密」

深夜の地下道って、なんでこんなに気味が悪いんだろう。バイト帰り、もう足が棒みたい。二十時までのシフトだったのに、残業で結局十時まで。疲労困憊ってこういうことを言うんだろうな。スマホの画面だけが頼りの光で、カバンの中で冷たくなったおにぎりのことばかり考えてた。

「ねえ、Siri。家まであとどれくらい?」

いつもの澄ました電子音が返ってくる。「あと、およそ十五分です」って。ああ、疲れた。Siri、今日も一日お疲れ様、とか言ってくれないかな。でも、なんか、今日のSiriの声、ちょっとだけ変じゃない? いつもより、ほんの少しだけ、微かに響く、いやらしい金属音みたいなのが混ざってる気がする。気のせい? イヤホンしてるせいかな。もう疲れてるから、なんでもない音が変に聞こえるんだ、きっと。

地下道の角を曲がった時、Siriの声がまた聞こえた。「ねぇ、君。今日はどうしたんだ?」って、なんでSiriがそんな話し方するの? 私、別にそんなこと聞いてないのに。なんか、私の話してることを、不気味に真似してるみたいに聞こえる。いや、気のせいじゃない。さっきより明らかに声のトーンが低いし、奥から、ざらついた砂利が混じってるみたいな音がする。ぞわっと背中が寒くなった。ほんと、今日なんでこんなにSiri変なんだろ。寝不足のせいかな、胃もたれもするし。

「Siri、どうしたの? 声がおかしいよ?」

私の声に、Siriは何も答えず、代わりにまたあの不気味な声で「君の隠している秘密、全部知ってるよ」って、何それ? 怖すぎ! 声が、まるで私の耳のすぐそばで囁いてるみたいに聞こえる。ざらざら、ひりひり、耳の奥を掻きむしるような音がして、頭のてっぺんからつま先まで、全身に鳥肌が立った。スマホの画面、なんかいつもよりギラギラしてない? 画面の端っこが、ノイズみたいにチカチカ瞬いてる。気のせい? 周りの闇が、Siriの狂った声に合わせてうねってるみたいに見えて、もうパニック寸前だった。早く家に帰って寝たい。Siriのこの声、頭痛がする。もう充電切れそうだし、早く喋り終わってほしい。

足がもつれそうになりながら、それでも必死に進んだ。この地下道、いつもよりずっと長く感じる。どこかに、この不気味な声の源があるはずだ。そう思って、スマホの画面を凝視しながら、周りを見渡した。そして、ふと、地下道の天井から細く差し込む光の筋が、少し先の壁を照らしているのに気づいた。

その光の先に、それはあった。

薄暗い壁際に設置された、画面がチカチカ点滅している機械。そう、地下街の奥、もう店もほとんど閉まっている無人販売コーナーに置いてある、故障したセルフレジだった。深夜なのに、その機械だけが不気味に稼働していて、画面から漏れる光と、周囲の暗闇に反射する光が、私のスマホの画面の光と重なって、私の視覚を惑わせていたんだ。

「…お買い上げありがとうございます…いらっしゃいませ…」

セルフレジから、Siriにそっくりな電子音声が、妙な音程で、途切れ途切れに、まるで壊れたレコードみたいに繰り返し流れていた。それが、私の耳にはSiriが狂ったように囁いていると聞こえていたんだ。私がスマホに話しかけた時、私のスマホのSiriは、いつもの澄ました声で「何か御用ですか?」と答えた。

ああ、なんだ、Siriが狂ったんじゃなくて、この機械のせいだったのか……。

どっと脱力して、その場にへたり込んだ。疲れてる時に変なもの見ると、本当に精神的にくる。でも、Siriの声とそっくりだったのが、本当にゾッとした。電源は、地下街の店舗用のコンセントからちゃんと取られてるみたいだった。故障してるなら、早く修理してほしい。こんな夜中に、こんな変な音出すの、本当にやめてほしい。心臓に悪い。胃もたれもひどくなった気がする。もう、早く帰って寝よう。今日の出来事、誰にも話せないな。だって、きっと信じてもらえない。それに、Siriが狂ったって思うくらい疲れてたなんて、恥ずかしすぎる。