
深夜の料金所って、なんでこんなに陰気なんだろう。蛍光灯の明かりはチカチカしてるのに、周りの闇が深すぎて、かえって余計なものが隠れてるんじゃないかって気がしてくる。今日はバイトの最終シフトで、もうゲート閉めて、あとは帰るだけ。なのに、足が鉛みたいに重い。
ああ、やだやだ。この、背中側の死角が見えない恐怖。ねぇ、わかる? 後ろに何かがいるかもしれないって想像すると、もうゾワゾワして、全身の毛穴が開く感じ。肩甲骨の間がムズムズして、背骨が一本一本、意識されるみたいに感じるの。誰もいないってわかってるのに、振り向けない。いや、正確には、振り向いて何かを見つけたらどうしようっていう恐怖で、体が固まっちゃう。だから、こうやって、わざとゆっくり歩いて、何度もチラ見しようとするんだけど、死角は死角なんだから、見えないものは見えないんだよね。
料金所のブースを出て、最後の施錠を済ませた。カチャ、って金属音が夜の闇に響いて、妙に大きく聞こえる。自分の心臓の音も、ドクン、ドクン、って、耳の奥で鳴ってる気がする。もう、なんで私ってこんなにビビりなんだろう。
その時だった。
ザッ、ザッ……。
遠くから、何か重たいものがアスファルトを擦るような音が聞こえた。最初は風の音かと思ったんだけど、リズムがある。一定の間隔で、コツン、ザッ、コツン、ザッ。まるで、誰かがゆっくりと、こっちに歩いてくるみたいな。
「うそでしょ……」
思わず声が漏れた。私以外、誰もいないはずなのに。料金所はもう閉まっているし、最終の車もとっくに行った。こんな時間に、誰が?
もう、背中が熱いのに、鳥肌が立って全身が冷たい。なんで、なんでこんな時に限って、この背中の死角ってやつが、よりにもよって私を苛むんだ! 振り返りたい。でも、振り返って、もしそこに何か、それこそ人間じゃないものが立っていたら? その一瞬で、私の人生、終わる。確実に。そう思うと、もう、動けない。でも、音は、確実に近づいてきてる。
コツン、ザッ……コツン、ザッ……。
さっきより、ずっと近くに聞こえる。私のすぐ後ろ、いや、料金所のすぐ横の工事現場の方から聞こえる。夜間工事でフェンスが立てられてるんだけど、その向こう側。薄暗い影が、フェンス越しに見える。縦長で、ゆらゆら揺れてる。風のせい? いや、それはあまりにも、人っぽい形をしてる。細身で、背が高い。そして、その影が、風に煽られてか、こっちに、こっちに傾いてくるみたいに見える。
やめて。もう、やめてよ。お願いだから、これ以上近づかないで。もう、呼吸ができない。肺が押しつぶされるみたいに苦しい。背中が痒い。何か這い上がってきてるみたいにゾワゾワする。もう、この背中の死角が、私を殺す。
「ひっ……!」
影が、さらに大きく、はっきりとしてくる。もう、人型そのものだ。いやだ、見たくない、見たくないけど、目が離せない。心臓が喉まで飛び出してきそうだ。口の中がカラカラに乾いて、唾液を飲み込むのも一苦労。
その時、料金所の外灯が、何かの拍子でパッと明るくなった。多分、センサーに反応したんだ。
そこで、ハッキリ見えた。
フェンスの向こう、工事現場の、まだ舗装されていない土の地面に、何本もの細長い木の棒が立っていた。それは、工事の安全を祈願して立てられた、お札のようなものだった。その中の一本に、工事用の白いビニールシートが絡まっていて、強い夜風に煽られるたびに、そのシートが木札に擦れて「ザッ、コツン」という音を立てていたのだ。そして、そのビニールシートが風で大きくたなびき、縦長の木札と重なることで、遠目には、まるで人が立って揺れているように見えたのだ。
……は?
私は、一瞬、呆然として、それから、急に全身の力が抜けて、その場にへたり込んだ。
「あはは……」
乾いた笑いが、夜の料金所に響き渡った。情けない。恥ずかしい。そして、何より、安心した。
あの背中の死角が、今回も私を騙したんだ。全く、もう。心臓に悪いったらありゃしない。膝がガクガク震えてる。もう、背中のゾワゾワも、汗も、全部収まった。でも、しばらくは、この料金所を一人で歩くの、無理かもしれない。
ああ、疲れた。早く家に帰って、お風呂に入って、寝たい。もちろん、壁に背中をぴったりくっつけて、寝たい。## 深夜の料金所、振り向けない私
深夜の料金所って、なんでこんなに陰気なんだろう。蛍光灯の明かりはチカチカしてるのに、周りの闇が深すぎて、かえって余計なものが隠れてるんじゃないかって気がしてくる。今日はバイトの最終シフトで、もうゲート閉めて、あとは帰るだけ。なのに、足が鉛みたいに重い。
ああ、やだやだ。この、背中側の死角が見えない恐怖。ねぇ、わかる? 後ろに何かがいるかもしれないって想像すると、もうゾワゾワして、全身の毛穴が開く感じ。肩甲骨の間がムズムズして、背骨が一本一本、意識されるみたいに感じるの。誰もいないってわかってるのに、振り向けない。いや、正確には、振り向いて何かを見つけたらどうしようっていう恐怖で、体が固まっちゃう。だから、こうやって、わざとゆっくり歩いて、何度もチラ見しようとするんだけど、死角は死角なんだから、見えないものは見えないんだよね。全く、私の体ってどうしてこう、肝心なところが役に立たないんだろう。
料金所のブースを出て、最後の施錠を済ませた。カチャ、って金属音が夜の闇に響いて、妙に大きく聞こえる。自分の心臓の音も、ドクン、ドクン、って、耳の奥で鳴ってる気がする。もう、なんで私ってこんなにビビりなんだろう。
その時だった。
ザッ、ザッ……。
遠くから、何か重たいものがアスファルトを擦るような音が聞こえた。最初は風の音かと思ったんだけど、リズムがある。一定の間隔で、コツン、ザッ、コツン、ザッ。まるで、誰かがゆっくりと、こっちに歩いてくるみたいな。その音は、まるで分厚い作業靴がアスファルトを削るみたいに、妙にリアルで重々しい。
「うそでしょ……」
思わず声が漏れた。私以外、誰もいないはずなのに。料金所はもう閉まっているし、最終の車もとっくに行った。こんな時間に、誰が?
もう、背中が熱いのに、鳥肌が立って全身が冷たい。なんで、なんでこんな時に限って、この背中の死角ってやつが、よりにもよって私を苛むんだ! 振り返りたい。でも、振り返って、もしそこに何か、それこそ人間じゃないものが立っていたら? その一瞬で、私の人生、終わる。確実に。そう思うと、もう、動けない。でも、音は、確実に近づいてきてる。
コツン、ザッ……コツン、ザッ……。
さっきより、ずっと近くに聞こえる。私のすぐ後ろ、いや、料金所のすぐ横の工事現場の方から聞こえる。夜間工事でフェンスが立てられてるんだけど、その向こう側。薄暗い影が、フェンス越しに見える。縦長で、ゆらゆら揺れてる。風のせい? いや、それはあまりにも、人っぽい形をしてる。細身で、背が高い。そして、その影が、風に煽られてか、こっちに、こっちに傾いてくるみたいに見える。私の視界の端で、影とフェンスの隙間が重なり合って、まるで腕を振り上げているようにも見えた。
やめて。もう、やめてよ。お願いだから、これ以上近づかないで。もう、呼吸ができない。肺が押しつぶされるみたいに苦しい。背中が痒い。何か這い上がってきてるみたいにゾワゾワする。もう、この背中の死角が、私を殺す。
「ひっ……!」
影が、さらに大きく、はっきりとしてくる。もう、人型そのものだ。いやだ、見たくない、見たくないけど、目が離せない。心臓が喉まで飛び出してきそうだ。口の中がカラカラに乾いて、唾液を飲み込むのも一苦労。胃がキリキリ痛みだす。
その時、料金所の外灯が、何かの拍子でパッと明るくなった。多分、センサーに反応したんだ。
そこで、ハッキリ見えた。
フェンスの向こう、工事現場の、まだ舗装されていない土の地面に、何本もの細長い木の棒が立っていた。それは、工事の安全を祈願して立てられた、お札のようなものだった。夜間工事の照明が届きにくい場所にあったそれは、普段はあまり目立たない。その中の一本に、工事用の白いビニールシートが絡まっていて、強い夜風に煽られるたびに、そのシートが木札にバタバタと擦れて「ザッ、コツン」という、妙に重い音を立てていたのだ。そして、そのビニールシートが風で大きくたなびき、縦長の木札と重なることで、遠目には、まるで人が立って揺れているように見えたのだ。
……は?
私は、一瞬、呆然として、それから、急に全身の力が抜けて、その場にへたり込んだ。
「あはは……」
乾いた笑いが、夜の料金所に響き渡った。情けない。恥ずかしい。そして、何より、安心した。
あの背中の死角が、今回も私を騙したんだ。全く、もう。心臓に悪いったらありゃしない。膝がガクガク震えてる。もう、背中のゾワゾワも、汗も、全部収まった。でも、しばらくは、この料金所を一人で歩くの、無理かもしれない。
ああ、疲れた。早く家に帰って、お風呂に入って、寝たい。もちろん、壁に背中をぴったりくっつけて、寝たい。