真夜中、私を呪う唸り

もう無理だ。本当に、もう無理。胸が潰れる。喉が締め付けられるみたいで、ヒュー、ヒューって情けない音しか出ない。この数日間、ずっとこれだ。夜になるとあの音が、あの、変な音が。真夜中に、ただならぬ音聞きながら過呼吸気味。もう嫌だ。本当に、死ぬ。

何が原因かも分からないまま、ずっとこの音に苦しめられてる。深夜になるとどこからか聞こえてくる、あの、重苦しい唸り。低い「ブーン」って音と、時々混じる「キーン」って耳障りな高音。それが風に乗って、まるで生き物みたいにうねるんだ。最初はただの騒音だと思ってた。でも、風が強く吹く夜は、その音が妙に、妙に……人の声みたいに聞こえる。

「あ、ああ、あー……」

みたいな、抑揚のある、意味不明な声。それが何かの、そう、お経みたいに聞こえるんだ。どこかの寺か、誰かの弔いか。こんな真夜中に。こんな街のど真ん中で。ありえない。頭がおかしくなりそうだ。もう、息が苦しい。吸っても吸っても、空気が喉の奥で止まっちゃう感じ。手足が痺れてきた。これ、もう過呼吸の限界じゃない?

くそっ、このままじゃダメだ。この音が一体何なのか、突き止めないと、私、マジで狂う。こんな時間に外に出るなんて、正気の沙汰じゃない。でも、このままじゃ家の中にいても発狂しそうだ。ヒュー、ヒュー……。冷や汗が背中を伝う。パジャマが肌に張り付いて気持ち悪い。

玄関のドアを開けた瞬間、ひやりとした夜風が顔を撫でた。公園に向かう。暗闇の中、足元もおぼつかない。街灯はまばらで、ほとんどが闇に沈んでいる。視界がぼやけるのは、恐怖のせいか、それとも過呼吸のせいで酸素が足りてないせいか。全部が薄い膜がかかったみたいに見える。まるで、本当に霧の中を歩いてるみたいだ。でも、これはただの闇だ。闇が怖いんだ。

風が、ゴォォォォって唸る。そのたびに、あの音が、もっとはっきりと聞こえるようになる。

「ナム、ナム、ナム……」

違う。違うはずだ。ただの、風と機械音の組み合わせだ。そう自分に言い聞かせても、耳の奥では、低く、深く、それが響いている。「お経」だ。これは、絶対に「お経」だ。誰かが私を、私だけを、呪ってるんじゃないか? 真夜中に、こんな音が聞こえるなんて、異常だ。私の神経はもう、限界。思考がまとまらない。足がもつれて、転びそうになる。

公園の奥へ、奥へと進む。音が、少しずつ大きくなる。あっちだ。あの方向だ。でも、何もない。木々がざわめく音と、風の音ばかり。どこから聞こえてくるんだ?

「ヒュー、ヒュー……」

喉がカラカラだ。目眩がする。もう、体が限界。諦めて家に帰って、またあの音に怯えるのか? そんなのは絶対に嫌だ。

その時だった。公園の隅、植え込みの陰に、ぼんやりと光が見えた。あんなところに、何かあったっけ? 普段はもっと暗いはずなのに。もしかして、あの音の正体は……?

引き寄せられるように、その光の方へ近づいていく。植え込みの葉っぱをかき分けて、覗き込む。そこにあったのは、真夜中だというのに煌々と明かりが灯る、コンビニだった。でも、なんか、いつもと違う。入り口のあたりに、大きな貼り紙がべたべた貼ってある。

「改装工事中につき、一時休業」

なんだよ、それ。ていうか、いつもは休業してるはずのコンビニなのに、なんでこんなに明るいんだ? 疑問に思いながら、建物の裏側に回り込む。そして、私は見つけた。

ごっつい、金属の塊。工事現場で見るような、業務用のでかい換気装置が、壁から突き出すように設置されていた。しかも、そいつはブンブンと唸りながら、必死に空気を吐き出してる。その横から伸びる太いコードは、地面に転がる仮設電源に繋がっていた。なるほど、工事用の仮設電源で動かしてるのか。

その換気装置から放たれるのは、耳をつんざくような重低音と、甲高い共鳴音。そして、私がそこに立っていると、ちょうど風が吹き抜けた。ゴォォォォ、と風が装置の排出口にぶつかり、その音が、ぐにゃりと歪む。

「……あ、ああ、あー……」

これだ。これだったんだ。風が強くなると、音が変形して、まるで人の声、それも、決まった抑揚のお経みたいに聞こえたのは。まさか、こんな馬鹿げたものが、私の数日間の恐怖の正体だったなんて。

「はは……はははは……」

脱力して、その場にへたり込んだ。枯れた草の匂いがする。地面に座り込んで、ヒューヒューと息を吐きながら、私は笑い続けた。もう、ヒステリックな笑いだ。笑いすぎて、また息が苦しくなってきた。でも、今度は恐怖の過呼吸じゃない。安堵の、笑い泣きの過呼吸だ。

なんなんだよ、これ。全部、全部、こんなもんだったのか。私の数日間の地獄は。改装工事中のコンビニの、仮設換気装置のせいで、私は真夜中にただならぬ音聞きながら過呼吸気味になってたのか。

笑いが止まらない。涙が、頬を伝って流れていく。このひどい息苦しさが、少しずつ、ほんの少しだけど、落ち着いていくのを感じる。ああ、本当に、馬鹿みたいだ。

立ち上がって、汚れたパジャマの裾を払った。もう、あの音は怖くない。ただの、換気装置の、唸りだ。そう分かった途端、あの「お経」はただの機械音にしか聞こえなくなった。

真夜中の公園を、とぼとぼと歩いて帰る。あの音が聞こえてくるけれど、もう、心臓はバクバク言わない。ただ、少しだけ、いや、かなり、疲れた。疲労困憊だ。早く家に帰って、シャワー浴びて、寝たい。もちろん、換気扇の唸りは、もう気にしない。たぶん。## 換気扇の唸り

もう無理だ。本当に、もう無理。胸が潰れる。喉が締め付けられるみたいで、ヒュー、ヒューって情けない音しか出ない。この数日間、ずっとこれだ。夜になるとあの音が、あの、変な音が。真夜中に、ただならぬ音聞きながら過呼吸気味。もう嫌だ。本当に、死ぬ。

何が原因かも分からないまま、ずっとこの音に苦しめられてる。深夜になるとどこからか聞こえてくる、あの、重苦しい唸り。低い「ブーン」って音と、時々混じる「キーン」って耳障りな高音。それが風に乗って、まるで生き物みたいにうねるんだ。最初はただの騒音だと思ってた。でも、風が強く吹く夜は、その音が妙に、妙に……人の声みたいに聞こえる。

「あ、ああ、あー……」

みたいな、抑揚のある、意味不明な声。それが何かの、そう、お経みたいに聞こえるんだ。どこかの寺か、誰かの弔いか。こんな真夜中に。こんな街のど真ん中で。ありえない。頭がおかしくなりそうだ。もう、息が苦しい。吸っても吸っても、空気が喉の奥で止まっちゃう感じ。手足が痺れてきた。これ、もう過呼吸の限界じゃない?

くそっ、このままじゃダメだ。この音が一体何なのか、突き止めないと、私、マジで狂う。こんな時間に外に出るなんて、正気の沙汰じゃない。でも、このままじゃ家の中にいても発狂しそうだ。ヒュー、ヒュー……。冷や汗が背中を伝う。パジャマが肌に張り付いて気持ち悪い。

玄関のドアを開けた瞬間、ひやりとした夜風が顔を撫でた。公園に向かう。暗闇の中、足元もおぼつかない。街灯はまばらで、ほとんどが闇に沈んでいる。視界がぼやけるのは、恐怖のせいか、それとも過呼吸のせいで酸素が足りてないせいか。全部が薄い膜がかかったみたいに見える。まるで、本当に霧の中を歩いてるみたいだ。でも、これはただの闇だ。闇が怖いんだ。

風が、ゴォォォォって唸る。そのたびに、あの音が、もっとはっきりと聞こえるようになる。

「ナム、ナム、ナム……」

違う。違うはずだ。ただの、風と機械音の組み合わせだ。そう自分に言い聞かせても、耳の奥では、低く、深く、それが響いている。「お経」だ。これは、絶対に「お経」だ。誰かが私を、私だけを、呪ってるんじゃないか? 真夜中に、こんな音が聞こえるなんて、異常だ。私の神経はもう、限界。思考がまとまらない。足がもつれて、転びそうになる。

公園の奥へ、奥へと進む。音が、少しずつ大きくなる。あっちだ。あの方向だ。でも、何もない。木々がざわめく音と、風の音ばかり。どこから聞こえてくるんだ?

「ヒュー、ヒュー……」

喉がカラカラだ。目眩がする。もう、体が限界。諦めて家に帰って、またあの音に怯えるのか? そんなのは絶対に嫌だ。

その時だった。公園の隅、植え込みの陰に、ぼんやりと光が見えた。あんなところに、何かあったっけ? 普段はもっと暗いはずなのに。もしかして、あの音の正体は……?

引き寄せられるように、その光の方へ近づいていく。植え込みの葉っぱをかき分けて、覗き込む。そこにあったのは、真夜中だというのに煌々と明かりが灯る、コンビニだった。でも、なんか、いつもと違う。入り口のあたりに、大きな貼り紙がべたべた貼ってある。

「改装工事中につき、一時休業」

なんだよ、それ。ていうか、いつもは休業してるはずのコンビニなのに、なんでこんなに明るいんだ? 疑問に思いながら、建物の裏側に回り込む。そして、私は見つけた。

ごっつい、金属の塊。工事現場で見るような、業務用のでかい換気装置が、壁から突き出すように設置されていた。しかも、そいつはブンブンと唸りながら、必死に空気を吐き出してる。その横から伸びる太いコードは、地面に転がる仮設電源に繋がっていた。なるほど、工事用の仮設電源で動かしてるのか。

その換気装置から放たれるのは、耳をつんざくような重低音と、甲高い共鳴音。そして、私がそこに立っていると、ちょうど風が吹き抜けた。ゴォォォォ、と風が装置の排出口にぶつかり、その音が、ぐにゃりと歪む。

「……あ、ああ、あー……」

これだ。これだったんだ。風が強くなると、音が変形して、まるで人の声、それも、決まった抑揚のお経みたいに聞こえたのは。まさか、こんな馬鹿げたものが、私の数日間の恐怖の正体だったなんて。

「はは……はははは……」

脱力して、その場にへたり込んだ。枯れた草の匂いがする。地面に座り込んで、ヒューヒューと息を吐きながら、私は笑い続けた。もう、ヒステリックな笑いだ。笑いすぎて、また息が苦しくなってきた。でも、今度は恐怖の過呼吸じゃない。安堵の、笑い泣きの過呼吸だ。

なんなんだよ、これ。全部、全部、こんなもんだったのか。私の数日間の地獄は。改装工事中のコンビニの、仮設換気装置のせいで、私は真夜中にただならぬ音聞きながら過呼吸気味になってたのか。

笑いが止まらない。涙が、頬を伝って流れていく。このひどい息苦しさが、少しずつ、ほんの少しだけど、落ち着いていくのを感じる。ああ、本当に、馬鹿みたいだ。

立ち上がって、汚れたパジャマの裾を払った。もう、あの音は怖くない。ただの、換気装置の、唸りだ。そう分かった途端、あの「お経」はただの機械音にしか聞こえなくなった。

真夜中の公園を、とぼとぼと歩いて帰る。あの音が聞こえてくるけれど、もう、心臓はバクバク言わない。ただ、少しだけ、いや、かなり、疲れた。疲労困憊だ。早く家に帰って、シャワー浴びて、寝たい。もちろん、換気扇の唸りは、もう気にしない。たぶん。