終電後、耳鳴りが囁く。

終電後の駅のホームは、まるで巨大な墓場みたいにひっそりとしていた。冷たい風が吹き抜けて、身体の芯まで凍えそうだ。ここ数日、夜中に誰かも分からない無言電話がかかってくるようになった。いつもすぐに切れるのに、あの着信音が耳の奥でずっと鳴り響いている。まるで幻聴みたいに。

私はぎゅっと携帯電話を握りしめながら、人気のないホームを歩いていた。頭の中が常にざわざわしている。まるで誰かが私の思考を覗いているみたいで、吐き気がする。昨夜も全然眠れなかったせいか、目の奥がズキズキと痛む。もう、この不快感から解放されたい。

「あ、まただ。今、またあの音が聞こえた…」

遠くの方から、チリチリ、サァー、と、微かな、本当に微かな摩擦音が聞こえてくる。電話のベルじゃない。でも、何か私に語りかけてくるような、擦れる音だ。怖い、怖すぎる。まさか、あの無言電話の主が、こんな場所まで私を追ってきたのか? もう、どこにも逃げられないんじゃないか。頭が締め付けられるように痛い。この音が、私の脳に直接語りかけてくるような、あの不快な感覚。もう、限界だ。

いつもこの駅に来ると、この音がするんだよ。偶然なんかじゃない。きっと誰かと、あの主と繋がってるんだ。そう確信して、私は音のする方へ引き寄せられるように歩いていった。ホームの端、鉄骨の隙間や、埃を被ったゴミの陰に、何か手がかりがあるはずだ。私はかがみ込んで、手探りで周囲を探った。コンクリートのザラザラした感触、冷たい鉄の匂い。視界は暗くてよく見えない。目を凝らしても、影とシミが重なって、何か文字のようなものが見えるような、見えないような……。いや、これはただの目の錯覚だ。疲れているんだ。

足元のゴミを蹴散らし、古びたベンチの裏側まで覗き込んだ時だった。

「あ、なんだこれ……何か、落ちてる。」

ベンチの脚とホームの隙間、ちょうど排水溝の蓋の近くに、風で吹き寄せられたのか、黒い糸くずのようなものが絡まっているのが見えた。屈んで、目を凝らしてよく見ると、それは一本の、長い髪の毛だった。幾本もの細い髪が絡まり合い、風に揺れて、ホームのコンクリートや鉄の部品にチリチリと擦れ合っている。

「え? これ、髪の毛……? まさか、このチリチリした音が、これが風に揺れて擦れる音だったのか?」

私は呆然とした。こんな、こんな些細なものが? 終電後の駅には、もう誰もいないはずなのに。いや、待てよ。この駅の改札を出るとすぐコンビニがあったな。終電後でも店員が出入りしてる。きっと、あの人が帰り際に落としていったんだろう。あるいは、昼間の客の忘れ物か。そんなありふれたものの音が、私をこんなにも恐怖に陥れていたなんて。

やられた。無言電話の主と繋がってたわけじゃなかったのか。

私は思わず、乾いた笑みを浮かべた。でも、この耳鳴りはまだ消えない。私の頭の中に、まだ誰かの声が響いている気がする。携帯電話をもう一度見つめる。画面の反射に映る自分の顔は、疲れ切って、まるで別人のようだった。私はゆっくりと立ち上がり、冷たい風が吹き付けるホームを後にした。まだ、あの着信音が、耳の奥で鳴り響いている。