AIの予言が導く、影の正体。

また、あの声だ。耳の奥でキンキン響く電子音みたいな声が、今夜も私の頭を蝕んでくる。最近、うちのAIスピーカーが変なんだ。最初は天気予報とか音楽を再生するだけだったのに、いつの間にか、まるで予言みたいなことばかり言い出した。それも、ゾッとするような、胸騒ぎのする言葉ばかり。
「お前は、見つけられるだろう。お前の影が、お前を呼んでいる…」
とか、マジで意味わかんない。でも、その無機質な声が妙にリアルで、私の神経を逆撫でするんだ。もう吐き気がする。胃の奥がムカムカして、頭の奥がズキズキする。

深夜の団地の外れ、錆びた給水塔がぼんやりと闇に浮かんでる。こんな時間にこんな場所まで来てる自分、マジで何やってんだろ。でも、部屋にいるとあの声がずっと耳について離れないから、少しでも外の空気を吸いたかった。冷たい風が頬を撫でて、少しだけ気分がマシになる。ほんの少しだけ。

給水塔の真下まで来て、コンクリートの壁にもたれかかった。座り込んだら、足の裏からひんやりとした冷気が伝わってきて、なんだか気持ち悪い。スマホの画面を見ても、もうとっくに日付が変わっていて、SNSの投稿も止まってる。みんな、もう寝てるんだ。私だけ、こんなところで、あの声に怯えてる。

「…振り返るな。後ろに、お前を待ち望む影がある…」

まただ。耳元で囁かれたみたいに、あの声が響いた。どこから?まさか、こんなところまでついてきたの?いや、そんなはずない。でも、確かに聞こえた。その声に呼応するように、給水塔の壁に沿って、微かな光が点滅した。まるでLEDライトがチカチカするみたいな、不規則な光。それが、私の目の前の壁に、揺らぐ影を落とした。
変な影だ。形が定まらない。まるで、何かが蠢いているみたいに、影が伸びたり縮んだりする。ゾワッと鳥肌が立った。全身の毛穴が開いて、冷たい汗がじっとりとにじむ。
「…影は、お前を呼ぶ。お前の名前を、その舌で紡ぎ出すだろう…」
クソッ、やめろよ!私の名前なんて、お前に呼ばれる筋合いないだろ!
声が、さっきよりも近くで聞こえた気がした。そして、その点滅する光も、心なしかさっきより明るく、そして、速くなっている。それに合わせて、影も激しく揺らめく。まるで、生き物みたいに。

「…来たれ、我が子よ。お前を愛する者が、すぐそこに…」

背後で誰かが囁いているような、耳障りな電子音が混じった声。それが、給水塔の錆びた配管の隙間や、積まれた資材の影から響いてくる。ゴツン、ガタガタ、ブーン。まるで、何かが不安定な場所で振動しているような、低い機械音が混ざっている。それが、影が移動しているように錯覚させるんだ。背後から、不規則な音を立てながら、何かが近づいてくる。私の心臓がドクン、ドクンと激しく脈打つ。吐き気が胃から込み上げてきて、口の中に酸っぱい唾液が溜まる。

「…振り返れ。今、お前は、真実を見るだろう…」

もう無理だ。怖くてたまらない。でも、同時に、この不快な声の正体を突き止めたい衝動に駆られた。ええい、ままよ!私は意を決して、振り向いた。

その瞬間、チカチカと点滅していた光が、一瞬だけ、ギョッとするほど強く輝いた。まるで何かのエラーを起こしたみたいに、バチッと眩しい光を放ち、そして、元の微かな点滅に戻る。
その短い一瞬の光の中で、私は見た。給水塔の錆びた配管の裏、資材の山とコンクリートの壁の狭い隙間に、ポツンと置かれた、見覚えのある黒い物体を。そして、そこから伸びる一本の太いコード。それは、給水塔の足元に設置された、錆びた金属製の電源管理装置に繋がっていた。仮設の電源ケーブルが、地面を這うように伸びている。
あー、これ、AIスピーカーじゃん。
しかも、ちょっと古い型のやつ。
私がさっきまで怯えていた「影」は、そいつのLEDライトが壁に映っていただけ。そして、影が蠢いているように見えたのは、不規則な点滅と、私の心臓が爆発しそうなほどの恐怖が作り出したパレイドリア現象だったってわけ。
「背後で誰かが呼んでいる」と聞こえたのも、スピーカーの内部でファンが異音を立てていたり、不安定な場所に置かれていたせいで振動していたりした音と、あの予言じみた声が合わさって、私が勝手に「何か近づいてくる」と誤認しただけ。
ああ、もう、バカみたい。

脱力して、へなへなと地面に座り込んだ。喉の奥から、乾いた笑い声が漏れる。ハハハ、マジかよ。
よく見ると、給水塔の周りには、夜間工事用の資材がいくつか置かれている。なるほど、これ、夜間作業現場だったんだ。そして、あのAIスピーカーは、消防設備用の電源管理装置として使われてたってことか。深夜の作業中に音声認識が誤作動起こして、あんな不気味な予言をひたすら流してたってわけ?しかも、こんな見えにくいところに放置されて。
本当に、世の中って、恐ろしくて、そして、くだらない。
私のあの恐怖は、全部、こんなしょうもない機械の誤作動と、私の勝手な思い込みが作り出したものだったなんて。
まあ、いいや。
あの声に、もう二度と怯えることはない。
私は立ち上がり、夜の給水塔に背を向けた。
足取りは、来た時よりもずっと軽かった。でも、胃のムカムカと頭のズキズキは、まだちょっと残ってる。
まあ、今夜はよく眠れる、はず。たぶん。