ズシン、ズシン。精米所の闇

ったく、こんな時間に米を精米しに来る羽目になるなんてね。まさかあの冷蔵庫の隅に、底をついた米袋が隠れてるなんて思いもしなかったわ。子供が「ママ、今日どうしてもおにぎりが食べたい!」なんて言い出すもんだから、仕方ない、と。でも、熱があるって言って布団に入ったばかりなのよ、あの子。一人残してくるのが気が気じゃなくて、ああ、もう、胸のあたりがずっとざわついているわ。このモヤモヤしたものが胃のあたりまで降りてきて、なんだか吐き気がするほどだ。

真夜中のコイン精米所は、ひどく薄暗くて、埃っぽい匂いが鼻につく。機械油と、古い米の澱んだような、独特の臭い。蛍光灯はチカチカと点滅して、耳障りな高周波を鳴らしている。早く済ませて、早く帰ってあげないと。あの子、一人で寂しがってないかしら。熱、また上がってないかしら。布団を蹴飛ばして、風邪をこじらせてないといいけど。

ガガガガ、ドゴォォォン……。精米機のけたたましい音が、古びた建物全体を揺るがす。その轟音に混じって、なんだか別の音が聞こえる気がした。ゴォン……ゴォン……。低い、重い音。最初は精米機の内部の音かと思ったのよ。でも、どうもリズムが違う。不規則で、まるで何か巨大なものが、ゆっくりと、しかし確かな重みで、何かにぶつかっているような。ゴォン……ズシン……。

思わず窓ガラスに目をやった。外は漆黒の闇で、街灯の光も届かない。窓には、うっすらと水滴が張り付いていた。ああ、やっぱり。雨が降ってるのね。私が家を出る時は、こんなに降ってなかったはずなのに。急に降り出したのかしら。ゴォン……ゴォン……。窓ガラスが、微かに、規則的に震えている。その震えが、水滴を揺らして、まるで重い雨粒が窓を叩いているように見えた。違う、見えたんじゃなくて、そう聞こえたのよ。精米機の音に掻き消されがちだったけど、その重い音は確かに、外から、窓を叩くように響いてくる。

こんな土砂降りじゃなかったはず、という疑問が頭をよぎったけれど、それよりも早く子供の元へ帰りたい、という焦燥感が、思考をかき消した。早く、早く。こんなところで立ち止まっている場合じゃない。

ズシン……ズシン……。音は次第に大きく、そして、重みを増していく。まるで、窓の外で何かが、大きな体を擦り付けるように、這いずり回っているみたい。こんな深夜に、こんな場所で、一体何が? 薄暗い精米所の隅々まで、その音が響き渡る。壁が、床が、振動している。背筋がゾクリとした。こんな歳になっても、やっぱり怖いものは怖い。特に、子供を一人残してきている状況で、こんな不気味な目に遭うのは本当にごめんだわ。心臓がドクドクと不規則に脈打ち、胃の不快感が増していく。

早く、早く。あの子、熱でうなされてないかしら。夢の中で、私を探して泣いてないかしら。こんなところで、変な音に怯えている場合じゃないんだ。早く、早く……。

意を決して、私は窓ガラスに近づいた。どんな土砂降りなのか、この目で確かめてやる、と。震える指先で、窓に付いた水滴に触れようと、手を伸ばした、その瞬間だった。

窓のすぐ内側から、より鮮明な「ズシン、ズシン」という音が、鼓膜を直接叩いた。

え?

音の発生源は、窓の外じゃなかった。この、精米所の、内部。私はハッと顔を上げ、薄暗い精米所の隅に視線を向けた。精米機の影に隠れるように、のっぺりとした、巨大な黒い塊が、ぬるりと動いているのが見えた。

マッサージチェア。

あぁ、そういえば、この精米所、隅っこにマッサージチェアがあったんだったわね。24時間営業だから、客寄せにでも置いてるのかしら。その、使い古された、大きなマッサージチェアが、プログラム通りに、ゆっくりと、しかし確実に、その重い身体を床に擦り付けるように動いていた。どうやら清掃員が電源を切り忘れたまま帰ってしまい、深夜の自動起動設定で動き出したようだった。

脱力感で、その場にへたり込みそうになった。怒り、呆れ、そして何よりも、こんな馬鹿げたことで時間を無駄にした自分への苛立ち。こんな馬鹿げた音に怯え、こんな馬鹿げた誤解をしていたなんて。

「ったく、こんなことしてる場合じゃないんだよ!」

私は誰もいない精米所で、思わず吐き捨てた。もう、本当に。早く精米を終わらせて、一刻も早く、あの子の元へ。それだけが、今の私を動かす唯一の理由だった。