ドンキ深夜、隙間は別の世界の扉

深夜2時半、こんな時間に何してるんだろうな、俺は。息子とのあの忌々しい喧嘩が頭から離れなくて、家にいても息苦しくて仕方なかったんだ。あいつ、俺の顔を見るなり「もううんざりだ」なんて言い放ちやがって。誰の金でこれまで飯を食ってきたと思ってるんだ。あの言葉が、まるで耳の奥にこびりついた耳垢みたいに、ずっとゴロゴロと鳴り続けてやがる。

結局、こんな時間まで開いてるドン・キホーテにフラフラと辿り着いた。店内は妙に静まり返っていて、煌々と照らされた商品棚と、その間の薄暗い通路が、まるで別世界みたいに感じる。普段の喧騒が嘘のようだ。足の裏がジンジンと痛む。さっきから腰もだるい。もう歳だな、本当に。こんな夜中にうろついてるなんて、我ながら情けない。これも全部、あの息子のせいだ。

店の奥の方から、なんだか変な音が聞こえてくる。最初は気のせいかと思ったんだ。耳鳴りか、あるいは隣の通路で誰かが商品を動かす音か。だが、しばらくすると、その音が徐々にまとまりを持ってくる。「シュウ、シュウ」と、まるで誰かが細く息を吐いているような、あるいはどこかの隙間から風が細く吹き抜けるような、そんな微かな音だ。薄暗いせいか、その音がやけに生々しく聞こえる。

まただ。また息子の顔が脳裏に浮かぶ。あの時、俺はもっと強く言ってやるべきだったのか? いや、あいつが悪い。あいつが俺の言うことを聞かないから、こんなことになったんだ。あの生意気な口答えが、今も俺の頭の中で反芻している。

音は止まない。いや、むしろだんだん耳についてくる。我慢できなくなって、俺は足をその音のする方へ向けた。ペットコーナーのあたりだ。薄暗い通路を抜けて、そこへたどり着く。照明が一段と暗い一角だ。猫の餌だの、犬のおもちゃだの、色とりどりのパッケージが沈むような光の中でぼんやりと見える。

音はさらに明確になっていた。「シュウ、シュウ」という規則的な吐息のような音。そして、時折、「ポタ、ポタ」と水が落ちるような微かな音が混じる。まるで、誰かが物陰に隠れて、息を潜めているかのようだ。心臓がドクドクと嫌な音を立て始める。汗が、背中にじっとりと張り付いた。

暗闇の中に、妙なものが見える。商品棚の影に、まるで深い亀裂が入ったかのように、縦長の光の筋がぼんやりと浮かんでいるのだ。それはまるで、この世界ではないどこかへ続く「隙間」のように見えた。光の筋はかすかに揺れ、その奥から、先ほどの音が漏れ出している。まさか、こんな時間に、店の中に不審者が潜んでいるのか? いや、そんな馬鹿な。だが、この不気味な音と、あの「隙間」のような光は一体……。

昔、息子がまだ小さかった頃、家の物置の隙間を怖がっていたのを思い出す。「お化けがいる」なんて言って、俺に抱きついてきたっけ。俺は「馬鹿なこと言うな」と叱り飛ばしたが、今、俺自身が同じような、いや、それ以上の恐怖を感じている。この加齢臭のする自分の体から、冷たい汗が吹き出るのが分かる。

「お客様、何かお探しですか?」

背後から、ひょいと声をかけられた。振り返ると、若い店員が立っている。真っ赤なドンキのベストを着て、ぼんやりと照明に照らされた顔が、妙に白く見えた。心臓が飛び跳ねる。

「あ、いや……ここから変な音が聞こえてくるもんだから。それに、あの光の筋も、何だか不気味で……」

俺が指差す先を、店員は怪訝そうに見た後、あっ、と声を上げた。そして、商品棚の影になっている一角を指差す。

「ああ、あれですか。お客様、あそこ、大型の観賞魚用の水槽があるんですよ。この棚の裏で、ちょっと見えにくいんですけど」

言われてみれば、確かに。店員が手を伸ばして、棚の隙間を指差す。そこには、俺が「隙間」と見間違えていた細長い光の正体、つまりは大型水槽の側面があった。暗闇の中で、水槽の黒い縁が周りの影に溶け込み、前面のガラスと背面の照明だけが、細い光の帯として見えていたのだ。

「あの音は、水槽の濾過装置と、自動給水ポンプの音ですね。24時間稼働で、水が蒸発して減ると、自動的に補給するようになってるんです。その時のポンプの駆動音と、水が循環する微かな音が、多分そう聞こえたんだと思います。たまに水滴が落ちる音も混じるので、余計に不気味に聞こえたのかもしれませんね。深夜には私も定期的に水質チェックも兼ねて巡回してるんですよ」

店員の言葉を聞いて、俺の体から一気に力が抜けていく。膝がガクガクと笑い出した。なんだ、そんなことだったのか。ただの水槽の音と、暗がりで錯覚した光の筋だったなんて。

これも全部、あの息子のせいだ。あいつとの確執で頭が一杯になっていたから、こんな簡単なことまで見誤るなんて。情けない。全く、情けない。もう、こんな夜中にうろつくのはやめよう。家に帰って、あの薄汚れた布団にでも潜り込むか。息子がどう思おうと、もうどうでもいい。いや、どうでもよくない。全く、どうでもよくないんだ。このモヤモヤは、一体いつになったら晴れるんだろうな。