トンネルに染み出す黒、止まらぬ震え

トンネルの秘密

クソッ、寒い。体がガタガタ震える。深夜二時、この時間帯に通勤なんて、一体誰が考えたんだか。頭の中は、今すぐ温かい布団に潜り込みたいって気持ちでいっぱいだ。喉の奥がひきつって、まともな声も出やしない。この急な寒気、まるで全身の血が凍りついたみたいだ。

薄暗いトンネルの照明が、俺の足元をぼんやりと照らす。蛍光灯のくたびれた光は、まるでこの場所全体が病んでいるみたいで、余計に気分が悪い。足元に目をやると、ギョッとした。床が、濡れている。不自然に、ぬめっと光を反射している部分がある。いや、これは水たまりなのか? 反射する光が、まるでそこから液体がじわじわと広がっているかのように見える。脳みそが警鐘を鳴らし始める。心臓がドクン、ドクンと耳元で鳴り響く。こんな時に限って、このクソみたいな寒気が俺の声を奪っていく。震えが止まらない。喉が固まって、息を吸い込むことすらままならない。何が起きてる? 何が、そこにあるんだ?

恐怖と寒気で思考が麻痺していく。濡れた床から、微かな音が聞こえる。ポツン、ポツン……と。それがトンネルの反響で、妙に大きく、どこか遠くで、水が勢いよく流れているような、そんな錯覚を起こさせる。いや、実際に流れてるのか? どこか深い場所で、何かが蠢いているような、重苦しい響きも伝わってくる。ああ、これはきっと、遠くの工事現場の振動音だろう。重低音が、地面を這うように響いてくる。でも、それがまた、この水音と重なって、とんでもなく不気味なハーモニーを奏でやがる。声が出ない。助けを呼ぶこともできない。喉の奥が締まって、ただ苦しい。全身の筋肉が意思とは関係なくピクピク痙攣する。一体何なんだ、この寒さは。

集中力の限界だった。ガタガタ震える手で、俺は恐る恐る濡れた部分の先を探り始めた。薄暗い壁際、配管やケーブルがごちゃごちゃしている陰に、何か黒い塊が潜んでいるのが見えた。ほとんど影に溶け込んでいて、意識しなければただの汚れにしか見えない。へたり込むように近づいて、目を凝らす。
そこに、フリマアプリで買った段ボール箱があった。
箱の側面には、まだ水滴がびっしりと付着している。それが薄暗い照明を反射して、まるで床全体が濡れているかのように見せていたんだ。そして、箱の底からは、じっとりと水滴が滴り落ちて、床に小さな水たまりを作っていた。
ああ、クソッ、これかよ。
先日、家を出る時、ゲリラ豪雨に遭ったんだ。その時、玄関に置いてあったこの箱が濡れて、俺はそのまま、濡れたことすら忘れて持ち出してしまったんだ。多分、このトンネルを通る時に、足元がおぼつかなくて落っことしたんだろう。
俺は、乾いた笑いを漏らした。ハハ、ハハハ……と、震えながら。
恐怖と、自分のアホらしさで、全身の力が抜けていく。地面に座り込みそうになるのを、必死で踏みとどまる。この寒気さえなければ、もっと早く気づけたはずなのに。自分の体が、ここまで役に立たないなんて。ああ、もう、本当に、いい加減にしてくれ。この震え、いつまで続くんだよ。