
深夜SAの謎の点滅
ったく、もう午前二時か。高速道路のサービスエリアの駐車場で、エンジンを切った車内は妙に静まり返っている。シートを倒して目を閉じてみたところで、どうせ碌な眠りにはつけやしない。この歳になると、眠りが浅いどころか、ちょっとした物音にも敏感になって困る。特に、この腕時計の秒針だ。カタ、カタ、カタ……。耳の奥で響くこの規則的な音が、どうにも神経を逆撫でする。まるで、俺の残りの時間を刻んでいるかのような、不気味な音だ。こんな時間に、こんな音を聞かされていると、余計なことばかり考えてしまう。
膀胱のあたりが、じんわりと鈍い痛みを訴えてくる。仕方なく体を起こし、車を降りた。深夜のSAは薄暗く、人気もない。風が遠くでヒューと鳴るのが、妙に耳につく。カタ、カタ、カタ……頭の中で時計の音がまだ響いているような気がして、イライラが募る。
トイレに向かおうと、自販機が並ぶドリンクコーナーの脇を通り過ぎようとした、その時だった。駐車場の奥、建物の影とトラックの陰に挟まれたような場所から、チカッ、チカッ、と不規則な光が明滅しているのが見えた。まるで、壊れた蛍光灯が瞬いているみたいに。薄暗闇に慣れた目で、じっと凝視する。光源がはっきりしない。何か、車の陰になっているのか? 嫌な汗が背中を伝う。こんな時間に、こんな場所で、一体何の光だ? 誰かが何かを弄っているのか? それとも、誰かが助けを求めているのか? いや、それにしては、あまりにも不規則で、不気味すぎる。カタ、カタ、カタ……くそ、頭の中の時計の音が、ますます大きく、耳障りになってきた。
チカッ、チカッ、チカッ……。光は途切れることなく点滅を繰り返している。そのたびに、微かな音が聞こえてくるような気がした。最初は気のせいかと思ったが、耳を澄ますと、確かに何かゴソゴソと動くような、擦れるような音が混じる。まるで、布と布が擦れる音、あるいは、硬いものが床を滑るような音。それに、時折、ドサッ、と軽いものが落ちるような、鈍い音も混じる。
俺はもう、トイレのことなどすっかり忘れて、その一点を見つめていた。まるで、金縛りにでもあったかのように、足が動かない。まさか、何かの事件か? 深夜のSAで、こんな不気味な光と音。誰かが、荷物を漁っているのか? あるいは、誰かを……。いや、そんなことはない、考えすぎだ。でも、この生理的な不快感はなんだ? 加齢のせいか、神経が過敏になりすぎているのか。この、カタ、カタ、カタ……という時計の音のせいで、俺はもう完全に参ってしまっている。幻聴でも聞こえてくるんじゃないかというくらい、神経が張り詰めている。心臓が、ドクドクと不規則に脈打つ。
突然、チカチカと点滅していた光が、ぴたりと止まった。途端に、辺りは一層の静寂に包まれる。そして、その静寂を切り裂くように、カシャッ、と金属が擦れるような、重いドアの開く音が響いた。俺は思わず肩を竦めた。
暗闇から、大柄な人影がぬっと現れた。作業着姿の男だ。男は車の横で立ち止まると、荷台の奥から何かを引っ張り出し、ドサッ、と地面に置いた。小さな段ボール箱だった。
「すみません、こんな時間に」
男は独り言のように呟くと、もう一つ荷物を降ろし、カシャッとドアを閉めた。
その時、SAの建物の明かりが、男の作業着の胸元を照らした。宅配業者のロゴだ。
「ああ……宅配便か」
俺は思わず、声に出して呟いていた。点滅していたのは、宅配トラックの荷台の蛍光灯が、積み荷の影や、ドライバーが作業するたびに不規則に隠れたり現れたりしていた光だったのだ。
男は俺の方をちらりと見たが、特に気にする様子もなく、手際よく荷物を積み替えている。
「明日の早朝便に間に合わせるための荷物でしてね。このSAで積み替え作業をしていまして。深夜だと邪魔も入らないんで、捗るんですよ」
男は気さくにそう言って、額の汗を拭った。
俺は、自分の過敏さに呆れて、力が抜けたようにへたり込んだ。深夜のSAで、こんな地味な作業を黙々とこなす人間がいる。そんな当たり前のことすら、この深夜の静けさと、脳裏にこびりついた時計のカタカタ音のせいで、とんでもない恐怖に変換してしまっていた。
まったく、この時計の秒針の音は、本当にどうにかならないものか。カタ、カタ、カタ……。耳障りで、不愉快で、俺の神経を蝕んでいく。早く朝になって、この音が雑踏にかき消されることを、ただただ願うばかりだ。