雨漏り?いいえ、そこに誰かいる

森の廃屋の謎

なんだかもう、体が痛くて仕方がない。この歳になって、こんな薄汚れた廃屋を探し回るなんて。まったく、物好きにも程がある。膝はキシキシ鳴るし、腰は重い石でもぶら下げてるみたいだ。数日前からこうして、この森の奥の廃屋に来ては、ぼんやりと過去の自分と向き合おうとしている。あの時の、あの忌々しい出来事を、ここでどうにか消化したくて。でも、一向に消えてくれないのよね、あの嫌な感覚が。胸の奥にずっと、カビ臭い湿気みたいに張り付いてる。

じっとりとした空気の中、奥まった部屋で息を潜めていた。外はもう真っ暗で、街灯一つない森の中は、本物の闇だ。手持ちの小さなランタンの光が頼りない。ひんやりとした床に座り込んでいると、冷えが体の芯まで染み渡る。ああ、またあの胃のあたりがムカムカしてきた。ストレス性の胃炎だか何だか知らないけれど、最近はすぐにこれだ。

その時だった。

カチリ……、カチリ……。

暗闇のどこかから、微かに、硬質な音が聞こえた。心臓が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。まるで、冷たい鉄の塊が胸に飛び込んできたみたいに。全身の毛穴という毛穴から、一瞬で冷たい汗が吹き出す。

カチリ……、カチリ……。

まただ。あの音だ。ドアノブが、ゆっくりと回される、あの憎たらしい音。

「嘘でしょう……」

思わず声が漏れたが、喉が張り付いたみたいにガラガラで、自分でも何を言ったか分からない。体が勝手に震え出す。背中を這い上がってくる冷たいものが、首筋を撫でていく。ああ、もう勘弁してほしい。あの時の恐怖が、また、この歳になってまで私を蝕むのか。あの、突然、ドアノブが回って、勝手に扉が開いた瞬間の、あの凍りつくような感覚。あの時、私は何をしていた? 何を考えていた? いやだ、思い出したくないのに、脳裏にはっきりと、あの瞬間がフラッシュバックする。もう、体が鉛みたいに重くて、少し動くだけで膝が軋んで痛むのに、こんな精神的な苦痛まで背負い込むなんて。本当に、いい加減にしてくれ。

カチリ、カチリ、カチリ……。

音が、規則的ではないけれど、何度も、何度も、私の耳元で鳴り響く。まるで、あの時の出来事を嘲笑うかのように。視界が、ぐにゃりと歪む。息がうまく吸えない。心臓が、まるでマラソン選手みたいに暴れ回っている。これが、また現実に戻ってきたというのか? あの、悪夢のような出来事が、この廃屋で、もう一度私を襲うのか?

「やめて……やめてよ……!」

声にならない叫びが、喉の奥で詰まる。パニックだ。完全に、頭の中が真っ白になって、自分の声すら、もう聞こえない。ただ、あの「カチリ、カチリ」という音だけが、耳の奥で、鼓膜を破るかのように響き渡る。胃がひっくり返りそうだ。吐き気がする。こんな気分、もう二度と味わいたくなかったのに。

その時、ふと、ランタンの明かりが、足元の床に反射して、チカッと光った。

カチリ、カチリ……。

音はまだする。だが、その光の先に、何かが見えた。床の湿った部分が、まるで人の指先がドアノブを掴んで、ゆっくりと回しているかのように、影を揺らめかせている。そこに、私の意識が吸い寄せられる。よく見ると、床はびしょ濡れだ。天井から、ポタリ、ポタリと、水滴が落ちてきている。錆びた鉄板の床に落ちた水滴が、不規則に、カチリ、カチリと鳴っていたのだ。そして、その湿った床には、うっすらと、土で汚れた足跡が残されていた。

「ああ……」

思わず、変な笑い声が漏れた。枯れた笑い声が、廃屋の湿った空気に吸い込まれていく。なんだ、ただの雨漏りか。そして、その水滴が、錆びた金属板に落ちる音が、あの忌まわしいドアノブの音に聞こえただけだったのか。そして、湿った床の反射光が、恐怖に怯える私の目には、ドアノブを回す影に見えた、と。

どっと、全身の力が抜けた。冷や汗で濡れたシャツが、背中に張り付いて気持ち悪い。胃のむかつきも、少しだけ引いた。安堵と、自分への呆れが、同時に押し寄せてくる。本当に、もう、情けないったらありゃしない。この歳になって、こんな子供じみた勘違いで、心臓が止まりそうになるなんて。

ただ、この足跡は一体誰のものだろう。私以外に、こんな廃屋に足を踏み入れる者がいたのか。それとも、この廃屋の持ち主が、今でもたまに忘れ物でも取りに来るのだろうか。まあ、誰が来たにせよ、私の心をこれほどかき乱した痕跡が、こんなにも現実的なものだったなんて。なんだか、急に体がだるくなってきた。もう、今日は帰って、温かい風呂にでも浸かって、ゆっくり眠りたい。この冷え切った体と、あの嫌なトラウマの残滓を、少しでも洗い流したい。