カラオケ個室で、俺を見つめる首。

深夜のカラオケボックスは、いつもと変わらず薄暗くて、どこか湿っぽい空気が籠っていた。前の客が置いていったのか、壁の隅には乾いたポテトチップスのカスが落ちてて、妙に生活感がある。俺は一人、マイクを握りしめて、無理やりテンションを上げようと流行りの曲を歌っていた。画面に映る歌詞は、やたらと「友達」とか「仲間」とか出てきて、その度に胃の奥がキュッと締め付けられる。

あー、マジで最近、友達と会う機会が減ったよな。っていうか、元からそんなに多くなかったけどさ。最近はもう、マジで寂しさMAXだ。スマホを手に取ってLINEのグループトークを開いてみたけど、やっぱり誰も書き込みしてない。数日前、俺が送った「元気?」ってメッセージにすら、未だに既読はつかないまま。別にいいんだ、みんな忙しいんだろうし。でもさ、たまには誰かと他愛もない話したいって思うじゃん? 画面に写る自分の顔が、ちょっと疲れてて、情けない。この部屋の隅っこで、俺だけが取り残されてるみたいだ。

歌うのも疲れて、マイクをテーブルに放り出した。その拍子に、隣のドリンクバーで冷えてたグラスが、ガタッと小さく鳴った。ああもう、こんな音にもいちいちビクッとしちゃうくらい、俺の神経は参ってるんだろうな。どうせ、誰もいないんだから、誰が聞いてるわけでもないのにさ。

壁際の窓から、ぼんやりと外を眺めていた、その時だった。

カサッ……、ズズ……。

天井の向こう、屋根裏あたりから、微かに何かが擦れるような音が聞こえた気がした。耳を澄ます。やっぱりだ。今度は「コトン……」って、何か軽いものが転がって、どこかにぶつかるような音。心臓がドクンと跳ねた。なんだ、今の音……? ネズミか? いや、ネズミにしては少し重いような、鈍い響き方だ。

「まさか、誰かいるのか……?」

喉がカラカラに乾いて、唾を飲み込んだ。でも、カラオケボックスの屋根裏に、誰かがいるなんて、そんな馬鹿な話があるわけない。きっと気のせいだ。俺の寂しさが、幻聴を聞かせているだけなんだ。誰もいない部屋で、一人で怯えてるなんて、マジで惨めすぎる。誰かにこの恐怖を話したいけど、話せる相手がいない。それが、一番辛い。

ズズズ……、ゴトッ!

今度は、さっきよりもはっきりと、何かがゆっくりと引きずられるような音、そして、硬いものが床に落ちるような鈍い音が響いた。天井が、ミシッと小さく軋んだような気までした。胃がキリキリ痛み出す。心臓がバクバクとうるさくて、耳の奥で自分の血流の音が聞こえる。冷や汗が、背中をツーッと伝っていった。

「う、嘘だろ……」

思わず、壁際に寄って身を縮めた。体が震える。本当に誰かがいるのか? それとも、幽霊とか、そういうやつ? んなわけあるか。でも、この気持ち悪い音はなんなんだ。このままここにいるのは無理だ。こんな時、誰か隣にいてくれたら、冗談でも「幽霊じゃね?」って笑い飛ばしてくれたら、どれだけ安心できるだろう。でも、俺は一人。常に一人。

もう、考えるのも嫌だ。でも、このままじゃ怖くて動けない。もういい、確かめてやる。この音の正体を突き止めて、スッキリしてやる。そうじゃないと、俺は今日一晩中、この寂しさと恐怖に押し潰されてしまう。

重い足を無理やり動かして、恐る恐る部屋の奥へと進んだ。音は、この部屋の奥、壁の向こうから聞こえてくるようだ。多分、隣の部屋か、そのさらに奥にある倉庫みたいな場所だろう。薄暗い通路を抜けて、使われていない部屋のドアをそっと開ける。ひんやりとした空気が肌を撫でた。

電気もついていないその部屋は、窓から漏れる外の街灯の光と、カラオケボックスの通路の明かりが、かろうじて奥の方をぼんやりと照らしているだけだった。なんだか、埃っぽい匂いがする。倉庫として使われているんだろう。

音の出どころを探して、目を凝らす。暗闇の奥、壁際に、何かが地面から突き出ているのが見えた。最初は、ただのゴミの山かと思った。でも、よく見ると、なんだか不自然な形をしている。意を決して、一歩、また一歩と近づいていく。足元に転がっていた空のペットボトルを蹴ってしまい、ガラン、と情けない音が部屋に響いた。俺はビクッと体を震わせたが、もう引き返せない。

さらに近づいて、覗き込むように顔を下げた。

そこには、大量のマネキンヘッドが、雑に積み上げられていた。埃を被ってて、いくつかは横倒しになってる。そのうちの一つを、手に取ってみる。白い肌は、なんだか妙に生々しくて、ゾワッとした。ああ、そうか。これは美容室とかで使うやつか。ズッシリと重みがある。底には、ゴム製の土台がついていた。

「なんだ、これ……」

力が抜けた。さっきの音は、これか。きっと、このマネキンヘッドが、振動か何かで倒れて、ゴム製の土台が床に擦れて、それで変な音が出てたんだ。天井がミシミシ言ったのは、単なる建物の軋みだったのか。

俺は、ハハ……と、乾いた笑いを漏らした。恐怖が去った後の脱力感が、全身を襲う。心臓のバクバクも、胃のキリキリも、嘘みたいに収まった。

なんでこんなところに、こんなものが大量に積んであるんだ? きっと、ここは24時間営業のカラオケボックスだから、夜中に備品を整理したり、清掃したりするんだろうな。それで、一時的にここに置いといたけど、スタッフが仕舞い忘れたとか、そんなとこか。

マネキンヘッドを元の山に雑に戻した。もう、どうでもいい。
結局、俺は一人で、こんなくだらないことに怯えていただけだった。誰かに笑い話にできるような、そんな面白い出来事でもない。ただ、一人で怖がって、一人で納得しただけ。

寂しさMAXだったけど、これで少なくとも、一晩くらいは安心して眠れる……はず。でも、このどうしようもない虚しさだけは、きっと朝まで続くんだろうな。カラオケボックスを出て、冷たい夜風に当たった。吐く息が白くて、俺の寂しさみたいに、すぐに消えていった。# 深夜のカラオケと、俺の寂しさ

深夜のカラオケボックスは、いつもと変わらず薄暗くて、どこか湿っぽい空気が籠っていた。前の客が置いていったのか、壁の隅には乾いたポテトチップスのカスが落ちてて、妙に生活感がある。俺は一人、マイクを握りしめて、無理やりテンションを上げようと流行りの曲を歌っていた。画面に映る歌詞は、やたらと「友達」とか「仲間」とか出てきて、その度に胃の奥がキュッと締め付けられる。

あー、マジで最近、友達と会う機会が減ったよな。っていうか、元からそんなに多くなかったけどさ。最近はもう、マジで寂しさMAXだ。スマホを手に取ってLINEのグループトークを開いてみたけど、やっぱり誰も書き込みしてない。数日前、俺が送った「元気?」ってメッセージにすら、未だに既読はつかないまま。別にいいんだ、みんな忙しいんだろうし。でもさ、たまには誰かと他愛もない話したいって思うじゃん? 画面に写る自分の顔が、ちょっと疲れてて、情けない。この部屋の隅っこで、俺だけが取り残されてるみたいだ。

歌うのも疲れて、マイクをテーブルに放り出した。その拍子に、隣のドリンクバーで冷えてたグラスが、ガタッと小さく鳴った。ああもう、こんな音にもいちいちビクッとしちゃうくらい、俺の神経は参ってるんだろうな。どうせ、誰もいないんだから、誰が聞いてるわけでもないのにさ。

壁際の窓から、ぼんやりと外を眺めていた、その時だった。

カサッ……、ズズ……。

天井の向こう、屋根裏あたりから、微かに何かが擦れるような音が聞こえた気がした。耳を澄ます。やっぱりだ。今度は「コトン……」って、何か軽いものが転がって、どこかにぶつかるような音。心臓がドクンと跳ねた。なんだ、今の音……? ネズミか? いや、ネズミにしては少し重いような、鈍い響き方だ。

「まさか、誰かいるのか……?」

喉がカラカラに乾いて、唾を飲み込んだ。でも、カラオケボックスの屋根裏に、誰かがいるなんて、そんな馬鹿な話があるわけない。きっと気のせいだ。俺の寂しさが、幻聴を聞かせているだけなんだ。誰もいない部屋で、一人で怯えてるなんて、マジで惨めすぎる。誰かにこの恐怖を話したいけど、話せる相手がいない。それが、一番辛い。

ズズズ……、ゴトッ!

今度は、さっきよりもはっきりと、何かがゆっくりと引きずられるような音、そして、硬いものが床に落ちるような鈍い音が響いた。天井が、ミシッと小さく軋んだような気までした。胃がキリキリ痛み出す。心臓がバクバクとうるさくて、耳の奥で自分の血流の音が聞こえる。冷や汗が、背中をツーッと伝っていった。

「う、嘘だろ……」

思わず、壁際に寄って身を縮めた。体が震える。本当に誰かがいるのか? それとも、幽霊とか、そういうやつ? んなわけあるか。でも、この気持ち悪い音はなんなんだ。このままここにいるのは無理だ。こんな時、誰か隣にいてくれたら、冗談でも「幽霊じゃね?」って笑い飛ばしてくれたら、どれだけ安心できるだろう。でも、俺は一人。常に一人。

もう、考えるのも嫌だ。でも、このままじゃ怖くて動けない。もういい、確かめてやる。この音の正体を突き止めて、スッキリしてやる。そうじゃないと、俺は今日一晩中、この寂しさと恐怖に押し潰されてしまう。

重い足を無理やり動かして、恐る恐る部屋の奥へと進んだ。音は、この部屋の奥、壁の向こうから聞こえてくるようだ。多分、隣の部屋か、そのさらに奥にある倉庫みたいな場所だろう。薄暗い通路を抜けて、使われていない部屋のドアをそっと開ける。ひんやりとした空気が肌を撫でた。

電気もついていないその部屋は、窓から漏れる外の街灯の光と、カラオケボックスの通路の明かりが、かろうじて奥の方をぼんやりと照らしているだけだった。なんだか、埃っぽい匂いがする。倉庫として使われているんだろう。

音の出どころを探して、目を凝らす。暗闇の奥、壁際に、何かが地面から突き出ているのが見えた。最初は、ただのゴミの山かと思った。でも、よく見ると、なんだか不自然な形をしている。意を決して、一歩、また一歩と近づいていく。足元に転がっていた空のペットボトルを蹴ってしまい、ガラン、と情けない音が部屋に響いた。俺はビクッと体を震わせたが、もう引き返せない。

さらに近づいて、覗き込むように顔を下げた。

そこには、大量のマネキンヘッドが、雑に積み上げられていた。埃を被ってて、いくつかは横倒しになってる。そのうちの一つを、手に取ってみる。白い肌は、なんだか妙に生々しくて、ゾワッとした。ああ、そうか。これは美容室とかで使うやつか。ズッシリと重みがある。底には、ゴム製の土台がついていた。

「なんだ、これ……」

力が抜けた。さっきの音は、これか。きっと、このマネキンヘッドが、振動か何かで倒れて、ゴム製の土台が床に擦れて、それで変な音が出てたんだ。天井がミシミシ言ったのは、単なる建物の軋みだったのか。

俺は、ハハ……と、乾いた笑いを漏らした。恐怖が去った後の脱力感が、全身を襲う。心臓のバクバクも、胃のキリキリも、嘘みたいに収まった。

なんでこんなところに、こんなものが大量に積んであるんだ? きっと、ここは24時間営業のカラオケボックスだから、夜中に備品を整理したり、清掃したりするんだろうな。それで、一時的にここに置いといたけど、スタッフが仕舞い忘れたとか、そんなとこか。

マネキンヘッドを元の山に雑に戻した。もう、どうでもいい。
結局、俺は一人で、こんなくだらないことに怯えていただけだった。誰かに笑い話にできるような、そんな面白い出来事でもない。ただ、一人で怖がって、一人で納得しただけ。

寂しさMAXだったけど、これで少なくとも、一晩くらいは安心して眠れる……はず。でも、このどうしようもない虚しさだけは、きっと朝まで続くんだろうな。カラオケボックスを出て、冷たい夜風に当たった。吐く息が白くて、俺の寂しさみたいに、すぐに消えていった。